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【在籍しながら別会社へ】雇用シェア(在籍型出向)に見るこれからの新しい働き方
新型コロナの影響によって、飲食業界や旅行宿泊業界また航空業界を中心に業績が著しく悪化している業界もあれば、在宅勤務等のテレワークやリモートワークが促進されたことでIT業界や宅配業界また小売業界を中心に業績が拡大している業界もあります。そのような業界間格差がある中で、新たな試みとして取り組まれているのが「雇用シェア(在籍型出向)」であり、最近ニュースではJALやANAといった航空会社がノジマ(大手家電量販店)に従業員を出向させたり、また京都府においても短期雇用シェアリング事業として取り組まているとの報道があったことは記憶に新しいと思います。今回はこの「雇用シェア(在籍型出向)」に内容にスポット当てて解説していきます。
「従来型雇用シェア」と「未来型雇用シェア」の違い
今回新たに取り組まれている他業界・他社への雇用シェアを「未来型雇用シェア」とすれば、今までの雇用シェア「従来型雇用シェア」というのは同一グループ内企業への在籍型出向がメインであり、また役職定年後や定年再雇用としての出向も多く、概ね高年齢労働者向けというイメージがありました。それ以外では民間企業同士や公民間における人材交流としての在籍型出向があったものの、そのシェア範囲はかなり限定的だったように思えます。
雇用シェアによる人材の流動化
つまり、今までは同一グループ内企業間における雇用シェアが行われており、これは内部労働市場性(企業内での人材調達)から派生する雇用形態ではあったものの、今回の雇用シェアはこれとは異なり、業界や会社を限定することのない外部労働市場性(外部からの人材調達)から派生している雇用形態となります。
本来であれば、A会社の業績が悪化しそこの従業員が解雇されれば、解雇された従業員は一旦労働市場を介して求職活動を行います。そこで業績好調なB会社の求人募集を受け採用される形となるのが一般的ですが、今回の雇用シェアというのはこの労働市場を介さずして、企業間で人材を提供し合う方法となります。
厚生労働省における雇用シェアの促進
このような労働市場を介さない企業間雇用シェアの大きなメリットは、従業員は解雇されることはないため雇用が安定すること、また企業にとっては人材調達コストを削減することができることです。
また国としても今後の労働人口の減少(2040年までには今よりも約1,200万人の働き手が減る見込み)を見据えて、できる限り雇用の安定は維持したいという狙いはもちろんのこと、会社業界に限定されない人材の流動化を図りたい狙いもあることから、厚生労働省ではこの雇用シェアについて以下のとおり支援を行っていますので、予め確認しておくと良いでしょう。
企業間マッチング支援
マッチング支援とは「公益財団法人 産業雇用安定センター」が行っている「雇用を守る出向支援プログラム2020」のことを言い、雇用の安定を守るため、一時的に雇用過剰となっている企業から人手不足が生じている企業への異業種間の在籍型出向の支援する仕組みとなっています。具体的には人手不足と雇用過剰との企業間における雇用シェア(在籍型出向)を活用しようとする場合に。「公益財団法人 産業雇用安定センター」が仲介役となり、双方の企業に対して出向のマッチングを無料で行います。(以下「雇用を守る出向支援プログラム2020」をご参照ください)
雇用調整助成金・産業雇用安定助成金の創設
「産業雇用安定助成金」は令和3年2月5日創設された新しい助成金であり、雇用調整を目的とする出向(新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされ、雇用の維持を図ることを目的に行う出向)を対象しています。もちろん在籍型出向であり目的は雇用維持のため、出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことが前提となります。なお助成金の対象は出向元企業と出向先企業の両方が対象となります。
その他にも出向元と出向先がグループ間企業(親会社と子会社の間の出向)でないこと、代表取締役が同一人物である企業間の出向でないことなど、出向元と出向先との資本的・経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められることが必要となります。また出向先で別の人を離職させるなど、玉突き出向を行っていないことなどのモラル的な要件もあります。
詳しくは「厚生労働省作成のリーフレット」を確認すると良いでしょう。
またそれ以外には「雇用調整助成金」というものがあり、「産業雇用助成金」は新型コロナの影響による一時的な事業縮小が条件となりますが、「雇用調整助成金」については新型コロナの影響に関係なく、経済上の自由による事業縮小であれば支給条件を満たすこととなります。
まとめ
このように国からの助成金が創設されていることにより、今後は会社・業界に縛られない企業間雇用シェアというのが雇用形態として浸透していくでしょうし、今回の新型コロナの影響下でさらにそれが促進していくものと思われます。今までの雇用シェア(在籍型出向)というのは、どちらかというと高年齢労働者向け・グループ内出向というイメージが強かったですが、今後は年齢に関わらない、他業種・他企業への出向というのが当たり前の時代となるのかもしれません。そのような時代の変化に伴い、働く側の個人も柔軟な働き方に対応できるよう、今から自身のキャリア形成を考えておく必要はありそうです。
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