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【社労士監修】残業時間の上限規制は何時間なのか?~知っておきたい自分が働く時間~
働き方改革が進み、今では仕事の生産性が求めれていることからも、昔のように残業することを良しとする考え方から、如何に仕事を早く効率的に終わらせるかという考え方にシフトしてきていることかと思います。
実際に就職や転職する時にも、その会社の残業時間は気になるところですし、実際に勤めている会社の残業実態が気になる方もいるのではないでしょうか?
ここでは
「求人募集では残業なしって書いてあったけど、本当にそうなの?」
「最近残業が多くて疲れた・・・うちの会社はブラック企業なのかな?」
と言った疑問に対して、「残業時間」の正しい基礎知識について解説していきますので、皆さんの残業実態と比べながら、ぜひ参考にしてみてください。
【今回記事でわかること】
「残業時間」に対する理解が深まることで、勤め先や転職先での残業実態がわかります!
残業時間の考え方
労働時間の上限について
残業時間を考える前に、まずはその基礎となる「労働時間」についてですが、労働時間については労働基準法32条により「1日8時間、1週間40時間を上限」としているため、会社はその時間を超えて従業員を労働させることはできません。
法定外労働時間と所定外労働時間の違い
次に残業時間についてですが、例えば一言に「残業時間が〇〇時間」と言っても、実は会社によって残業時間の考え方が異なっており、同じ残業時間数でも実態が異なっているケースがあります。この残業時間の定義については「法定外労働時間」と「所定外労働時間」の2つに分けられることになりますので、少し詳しく解説していきます。
■法定外労働時間とは?
法定外労働時間とは、先程述べたとおり、労働基準法で定める労働時間の上限規制を超える労働時間となります。
例えば1日の労働時間が10時間の場合は、上限規制(1日8時間)を超える2時間が法定外労働時間となり、会社によってはこの2時間を残業時間と定義していることもあります。
■所定外労働時間とは?
会社に就職する際には雇用契約書や労働条件通知書に必ず「所定労働時間」というのが記載されています。
この「所定労働時間」というのは「会社が定めている労働時間」であり、例えば「始業9時~終業17時まで」というように設定されています。
実際に「始業9時~終業17時」のケースで休憩時間を1時間として設定している場合は、労働時間は7時間となるため、この7時間というのが所定労働時間となります。
そしての7時間を超えた時間が「所定外労働時間」となり、会社によってこの「所定外労働時間」を残業時間として定義していることもあります。
所定外(法定内)労働時間について
なお、所定外労働時間が必ず法定外労働時間に該当するとは限らず、所定外労働時間があっても1日全体の労働時間が8時間未満で納まる場合は、その所定外労働時間は法定内労働時間となります。
例えば所定労働時間が「始業9時から終業17時まで(休憩1時間含む)」の場合、労働時間は7時間となります。そしてその日が業務が多忙のため18時まで仕事をした場合、17時~18時までは所定労働時間を超えるため「所定外労働時間」に該当しますが、18時まで仕事をしたとしても労働時間は8時間以内となるため「法定外労働時間」は発生しません。
このため17時~18時までの時間を「所定外(法定内)労働時間」という言い方もします。
法定外労働時間を基準に考える
今回は、残業時間の上限規制(法規制)についての解説になるので、残業時間については「法定外労働時間」をベースに解説しています。
つまり「法定外労働時間」がある場合は、労働基準法に定める「1日8時間、1週間40時間」を超えて、何時間までなら残業がOKとなるのか?を確認していきます。
会社によっては所定外労働時間と合算して残業時間を管理しているとこもありますので、その場合は今回記事で記載している時間数に「所定外(法定内)労働時間」を足す必要があるので注意してください。
36協定について
ここまで残業時間の考え方について説明してきましたが、労働基準法で労働時間の上限が定められている以上、原則として労働時間の上限を超える残業は認められていません。
ただし、人手不足や突発的な出来事により業務が多忙となる場合、どうしても残業せざるを得ない状況もあるため、その場合は会社と従業員とで事前に「労使協定」を結ぶことにより、例外的に労働時間の上限を超える残業(法定外労働時間)が認められることとなります。
この「労使協定」というのは労働基準法第36条に記載されていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
36協定における残業時間の上限規制
一方で「36協定」を結んだことで法定外労働時間は認められるものの、無制限に残業させることはできず、残業時間(法定外労働時間)に対しても上限規制が設定されています。
なお、この残業時間の上限規制については、以前までは厚生労働省から基準が示されるに留まり、仮に違反しても法的罰則はありませんでしたが、法改正により2019年4月から(中小企業については2020年4月から)は労働基準法第36条に明記されたことにより、違反した場合は法的罰則が設けられることとなりました。
その労働基準法第36条で明記されている残業時間の上限は「1箇月45時間、1年間360時間」となります。(※1年間の変形労働時間制を採用している場合は1箇月42時間、1年間320時間)
イメージしてみるとわかりやすいかもしれませんが、1箇月あたりの労働日数を20日とした場合、1年間平均で考えると360時間÷12月÷20日=1日あたり1.5時間の残業が発生しますが、繁忙期がある場合は45時間÷20日=1日あたり2.25時間の残業が一時的に発生することになります。
36協定の特別条項付きについて
さらに36協定については「特別条項付き」というものがあり、突発的・臨時的な出来事の発生等の特段の事情が発生した場合、先程の残業時間の上限規制である「1箇月45時間、1年間360時間」を延長させて、さらに残業時間が認められるいう内容のものになります。
この「特別条項付き」についても以前は上限規制がなかったため、一旦労使協定が結ばれると青天井に残業が認められてしまうものであったことから、「過労死」を誘発するものとして問題視された経緯があり、法改正により2019年4月から(中小企業については2020年4月から)は労働基準法第36条において、特別条項付きにおける残業時間の上限規制が設けられることとなりました。
特別条項付きの残業時間の上限規制については
- 「法定外労働時間と休日労働時間の合計時間数が月100時間未満」
- 「法定外労働時間の時間数が年間720時間未満」
- 「1箇月の法定外労働時間が45時間を超えることができるのは1年間のうち半年が上限」
と定められています。
ちなみに休日労働時間というのは、法定休日(労働基準法に定める休み=1週間に1日、または4週間に4日)に働いた時間になり、所定休日(法定休日以外に会社が定めた休日)に働いた時間ついては、労働時間の上限を超えた場合は法定外労働時間に含まれます。
この特別条項月付の残業をより具体的にイメージしていくと、1箇月あたりの労働日数を20日とした場合、法定外労働時間の時間数が年間720時間未満というのは、720時間÷12月÷20日=1日あたり3時間の残業が発生することとなり、8時間+3時間+1時間(休憩)=12時間となることから、休憩時間を含めて朝8時から夜8時まで働くイメージとなります。
また法定外労働時間と休日労働時間の合計が月100時間未満というのは、1日あたり4時間の残業(例:休憩含めて朝8時から夜9時まで働く)かつ、休日出勤が2回あり1回あたり10時間働くイメージになります。
なお特別条項付での残業については、あくまでも「突発的・臨時的な出来事」が発生することが条件としてるため、「業務が多忙なとき」「業務の都合上必要なとき」「やむを得ないとき」等の特段の事由を限定していない場合は認めらないこととなります。
臨時的なものとして認められるものとしては
- 予算・決算業務
- 納期のひっ迫
- 大規模クレームへの対応
- 機械トラブルへの対応
- 新システムの導入
など、年間を通じて発生しないことが明からなものに限ります。
個人単位における残業時間の上限規制
今まで36協定における残業時間の上限規制について説明してきましたが、36協定というのは同じ会社あってもA事業所・B事業所等の事業所ごとに労使協定を結ぶことになるため、A事業所で働く従業員は36協定Ⓐが適用され、B事業所で働く従業員は36協定Ⓑが適用されることとなります。
すなわち、A事業所で残業していた社員が、期中でB事業所に転勤した場合、今までのA事業所での残業時間がゼロクリアとなり、新たにB事業所でゼロから残業時間が算定されることとなるため、過重労働を誘発させる可能性があることから、残業時間の上限規制については「人単位」でも規制されています。
「人単位での残業時間の上限規制」については以下のとおりです。
- 法定外労働時間+休日労働時間の合計時間数が月100時間未満
- 法定外労働時間+休日労働時間の合計時間数の2~6箇月の平均が月80時間以下
であることとされています。
簡単に言えば、繁忙期であれば残業時間と休日労働時間で最大で月100時間まで働くことが認められますが、常に月平均は80時間をキープしておく必要があります。またこの月100時間、月平均80時間というのは「過労死ライン」とも呼ばれており、この時間を超えると脳血管疾患や心疾患を患い過労死する可能性が高まってくると言われています。
最後に
冒頭でも述べたように、今では労働の生産性が重要視されている中で、残業ありきの労働時間について見直しが図られてりますが、やはり会社や業界によっては残業が認められていることで仕事として成立しているケースもあり、一概に「残業のある・なし」を善悪で決めることはできません。
しかし、実際に働く立場からすれば、身体が資本ではありますので、健康を害さず元気で働きたいのが正直なところではないでしょうか?
今回紹介した「残業時間の上限規制」については、あくまでもデッドラインとしての規制であり、上限ぎりぎりまで残業させて良いという趣旨ではないことが一番のポイントです。つまりは原則は「1日8時間、1週間40時間」の労働であり、例外的に36協定で残業=法定外労働が認められているに過ぎないということです。
働く皆さんにおかれましては、ご自身の健康管理という面からも残業時間の考え方を知っておいて損はありませんし、会社においても社員とのエンゲージメントを高めて人材を確保するためにも残業時間の削減という意味でぜひ参考していただければ幸いです。
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