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【社労士監修】高度プロフェッショナル制度とは何か?対象労働者やメリット・デメリットについて解説
高度プロフェッショナル制度とは、法改正によって2019年4月から施行されている制度になり、働き方改革の一環として、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望すうる労働者のニーズに応えるために」制度化された仕組みになります。
ただ、制度化される前に残業代ゼロ法案と言われていたりと、
「高プロ制度は違法残業を助長するのでは?」
「結局のところ残業代未払いを合法化しているだけでは?」
と思われている方も多いのではないでしょうか?
今回記事では、高度プロフェッショナル制度についてわかりやすく解説していきますので、制度を正確に理解することで、個人においては働き方の選択肢が増え、また企業において人事雇用の選択肢が増えることにもなりますので、ぜひご参考ください。
【この記事でわかること】
「高プロ制度を正しく理解できます!」
高度プロフェッショナル制度とは?
高度プロフェッショナル制度とは、以前に「ホワイトカラーエグゼンプション」とも言われていたように、高度な専門知識等を有する労働者を対象にして、労働基準法に定める労働時間・休憩・休日等の規制を緩和する制度となります。
なお、高度プロフェッショナル制度を導入するにあたっては、対象労働者・対象業務を限定したうえで、長時間労働を防止する健康確保措置(年間104日の休日確保の義務化など)を講じる等の一定の条件を満たす必要があり、条件を満たすことで、時間外労働・休日労働における36協定の締結や、割増賃金の支払い義務等の適用が免除されることになります。
これは、高度プロフェッショナル制度が議論される際に、「残業代ゼロ法案」や「違法残業の合法化」との批判があったり、また過労死を助長するのではないかとの懸念もあったことから、対象労働者や対象業務を限定的にすることで、法制化された背景があります。
高度プロフェッショナル制度の導入はわずか
上記のような背景から、高度プロフェッショナル制度を導入している企業は少なく、厚生労働省が公表している「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」においては、令和3年3月末時点では、導入している企業数は20社(21事業所)であり、対象労働者は552人とかなり少ないことがわかります。
ただ、今後も働き方改革が進むにあたり、時間ではなく成果型での働き方が評価される時代になれば、導入する企業が増えてくる可能性もあり、また制度自体も改正される可能性があるため、今後の動向に注目です。
高度プロフェッショナル制度の内容
制度のポイント
高度プロフェッショナル制度の特徴としては、以下のポイントが挙げられます。
- 働いた時間ではなく、仕事の成果で評価される
- 業務内容の範囲が明確かつ専門的であり、高度な能力を持っている労働者が対象となる
- 対象者は労働基準法に定める労働時間・休憩・休日や割増賃金の適用を受けない
対象業務のポイント
高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、①高度で専門的な知識・技術を要すること、②業務に従事した時間と成果との関連性が高くないこと、また③業務に従事する時間に関して会社から具体的な指示を受けないものに限定されています。
対象業務の範囲
高度プロフェッショナル制度の対象業務の範囲は限定的であり、以下の業務に限定されます。なお以下の業務でも一律に対象となるわけではなく、実際に従事する業務内容によって決まるため、詳しく確認したい方は厚生労働省リーフレット「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」で確認して見ると良いでしょう。
- 金融商品の開発業務
- 金融商品のディーリング業務
- アナリスト業務(企業や市場などの高度な分析を行う)
- コンサルタント業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案や助言を行う)
- 研究開発業務
対象労働者
実際に、対象業務に従事するだけではなく、業務に従事する労働者自身による同意が必要になったりと、労働者に対しての条件も以下のとおり設けられています。
- 書面よる合意によって、職務の範囲が明確に定められている労働者
- 「1年間に支払われると見込まれる賃金の額が、平均給与額の3倍を相当程度上回る」水準である労働者(年収1075万円以上の労働者を想定)
これは高度プロフェッショナル制度を導入することにより、時間外労働や休日労働の規制が適用されなくくなり、違法残業を助長する可能性があることから、会社が一方的に決められるものではなく、働く本人の同意を必要としたものになります。
高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット
高度プロフェッショナル制度を導入する際は、企業また働く個人にとってそのメリット・デメリットを十分に理解しておく必要があります。
また、企業と労働者とで十分にメリット・デメリットを理解したうえで、きちんと話し合ったうえで導入しなければなりません。
制度のメリット
高度プロフェッショナル制度のメリットとして、以下が例として挙げられます。
《労働生産性の向上》
高度プロフェッショナル制度は、労働時間による賃金体系ではなく、成果・業績による賃金体系によって賃金を決定します。つまり働く労働者にとっては自らの裁量で業務を進めることができ、業務の効率性を求めやすく、また短い時間で成果を上げようとするため、会社全体の労働生産性の向上にもつながります。
《ワークライフバランスの実現》
高度プロフェッショナル制度は、労働基準法が適用されないため、また労働者の裁量で始業時間、就業時間、また休暇日の設定を自由に決められます。育児・介護と仕事との両立が可能となるため、ワークライフバランスの実現にも期待されています。
《社員の不公平感を是正》
一般的な日本企業では、今でも労働時間と関連した賃金体系が多く、残業代を前提とした賃金制度となっています。そのため業務の成果とは関係なく、残業時間を含む実労働時間に応じて賃金が支払われるため、成果を重視する社員や効率を重視する社員とっては、賃金自体に不公平感が生じます。
一方で高度プロフェッショナル制度では、成果や業績に連動した賃金体系となるため、成果や業績が正当に評価することができ、社員の不公平感を解消することができます。
制度のデメリット
一方で高度プロフェッショナル制度のデメリットとして、以下の例が挙げられます。
《長時間労働への助長》
高度プロフェッショナル制度は、労働基準法における労働時間規制が適用除外となるため、1日あたりの労働時間規制が無くなります。なお制度導入にあたっては健康確保措置としてインターバル措置(終業時間と始業時間までの間に一定の休息時間を確保する)などを設けたる必要があったりと、一定の時間規制は残りますが、業務が多忙になればなるほど長時間労働に歯止めが効かなくなるため、結果として過労死やうつ病などの精神疾患を発症する可能性が高まります。
《残業代がなくなる》
高度プロフェッショナル制度は労働基準法みおける割増賃金も適用外となるため、残業手当や深夜手当の支給が無くなります。つまり成果や業績が無ければ、実際に業務に費やした労働時間は賃金として評価されないことになります。
《成果の評価基準が曖昧》
高度プロフェッショナル制度で指定されている対象業種のなかには、短期間で成果が出やすいもの、逆に成果が出るまでに長期間かかるものもあります。つまり長期間かかるものについては、成果が出ない期間における評価が難しいことになります。
裁量労働時間制との違い
裁量労働時間制とは、労働時間を算出せず、労働時間を労働者の裁量に委ねる労働契約となります。
裁量労働時間制も高度プロフェッショナル制度と同じように、労働時間ではなく成果や業績によって、報酬を決定しますが、裁量労働時間制のというのは労働時間を一定時間働くものとして「みなし労働時間」を設定することで労働時間を計算することになります。
また22時以降から翌朝5時まで働くとなると、割増賃金(深夜手当)の対象となります。また裁量労働時間制では特に職種は限定されず、年収要件も設けられてはいません。
高度プロフェッショナル制度の導入
健康確保措置
高度プロフェッショナル制度の導入をするにあたっては、長時間労働が懸念されることから、従業員への健康確保措置の実施が義務化されています。
実際には以下のとおり、従業員の健康確保措置を講じなければなりません。
経営者は客観的な方法で在社時間等の時間である「健康管理時間」を把握する
- インターバル措置(終業時刻から翌日の始業時刻までの間に一定時間以上を確保すること)
- 1月または3月の健康管理時間の上限措置、年間104日の休日確保措置のいずれかを講じる
- 省令によって定められた事項のうち、労使間で定めた措置を講じる
- 医師による面談指導の実施
導入手続き
また高度プロフェッショナル制度を導入するためには、通常の働き方と異なり、労働時間で報酬が決まらないことや長時間労働の可能性が高まることから、従業員の十分の話し合いのうえ本人からの同意が必要となります。
- 職務の内容および報酬の決め方について、本人の同意を得ること
- 対象業務・対象労働者をはじめとした各事項などを決議すること
まとめ
高度プロフェッショナル制度は、一定の年収要件(年収1075万円以上)や対象労働者を限定することにより、労働基準法に定める労働時間規制を緩和する働き方となります。
日本においては生産性の低さが指摘されており、労働時間によらない働き方というも今後増えてくるかと思いますが、一方で、日本の雇用文化においては労使対等というよりは、使用者側の権力が強い傾向があり、働く職場によっては悪用される可能性もあります。
そのためにも労使ともに制度を正しく理解することで、より生産性の高い働き方が目指していけるのではないでしょうか?
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