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日本でも導入なるか?ドイツ式に学ぶ「労働時間貯蓄制度」とは何か?
日本人は「真面目で勤勉」というイメージが強いからでしょうか?また昔の「24時間働けますか?」という流行り言葉があったからでしょうか?現代の働く会社員にとってみれば「すでに残業は当たり前」という感覚を持たれている方が多い中で、最近では労働の生産性が重要視され、労働時間よりも労働の中身が問われる時代となり、今、日本の労働の生産性の低さ指摘されています。
一方で、日本に近しく勤勉な国のイメージの強いドイツでは、先進国の中でも高い労働の生産性を誇っています。その高い生産性が実現できた要因の1つとして「労働時間貯蓄制度」の導入が挙げられます。
「労働時間貯蓄制度」という名前だけ聞くと
「時間を貯蓄する制度?残業が長くなるのでは?」
と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、今回記事ではドイツの「労働時間貯蓄制度」に注目し、その概要、メリット・デメリットについて、わかりやすく解説していきます。
【この記事でわかること】
「労働時間貯蓄制度とは、残業した分だけ休める制度です!」
労働時間貯蓄制度とは?
制度の概要
労働時間貯蓄制度とは、働く個人が労働時間に関する専用口座を作って、所定外労働時間すわなち残業時間を口座内に貯蓄する制度のことを言います。
まず労働時間貯蓄制度が作られる前提として、予め1ヶ月また1年あたりの総労働時間の枠というのが決められています。そして、その総労働時間の枠を超過した時間については、休暇等に費やすことで相殺していくというのが「労働時間貯蓄制度」となります。
簡単に言えば残業した分だけ休むことできる制度であり、労働者の過重労働防止やワークライフバランスの実現が期待できるとされています。例えば「今日は残業して少し仕事を頑張り、明日は時短勤務で軽めに仕事をしよう!」ということが、労働者個人の裁量で可能になり、仕事時間に柔軟性が生まれます。
ドイツが発祥の地
労働時間貯蓄制度とはドイツで考案され、過去10年以上にわたってドイツが国を挙げて実施してきたものになります。
ドイツの場合は先進国の中でも最短水準の労働時間と高い生産性を実現できており、OECD(経済協力開発機構)の統計を見ると、労働時間貯蓄制度が導入された平成20年の段階では、年間の労働時間が1,418時間と、日本の1,771時間よりも約20%少ないにも関わらず、労働の生産性は日本の約1.5倍となっています。また直近の令和元年の段階ではドイツの年間労働時間1,386時間に対して、日本は1,644時間と約15%の開きがあります。
実際にドイツでは週35時間の労働時間が設定されており、労働時間貯蓄制度については、その基準を超える時間外労働(残業)により貯蓄された労働時間を長期休暇に当てるケースも多く、またフレックスタイム制と併用しながら、コアタイムだけ働いてフレキシブルタイムは休むという方法もとられているようです。
なお、労働時間貯蓄制度の目的というのは「労働体制の柔軟化」です。
もちろん労働時間が短縮されることは労働者にとっても、また労働の生産性の観点からも望ましいものですが、労働時間が短縮化が進み過ぎると「繁忙期に業務が間に合わない」「コストがかかるため人材を雇用しずらい」といった問題が生じてしまいます。
つまり、雇用を維持しながら「繁忙期には働く」「閑散期には休む」といった仕事にメリハリをつけて、労働の生産性を向上させるシステムというのが「労働時間貯蓄制度」となります。
もともと労働時間に対する意識が高いドイツだからこそ達成できたとも言えますが、実際に労働時間口座に貯蓄できる時間の上限や、休暇に転換できる期間については、個々の企業や雇用契約の内容によって異なるようですが、ドイツでは労働者の過重労働に対しては厳しく規制されており、会社が原則10時間の労働時間を超える残業をさせた場合は、その事業主や現場監督者に罰金が科せられます。
こういった厳しい規制を踏まえて、ドイツの労働時間への意識の高さは年次有給休暇の消化率にも表れており、日本とは異なって年次有給休暇は100%消化されるのがスタンダートとなっています。
メリット・デメリット
制度のメリット
労働時間貯蓄制度は、労働者自らが仕事のON・OFFを設定することで、自発的に労働時間を管理するこが可能となります。その結果、労働者の裁量で無理なく働き続けることが可能となり、企業も残業時間管理の手間を減らしながら、人材を確保しておくことが可能になります。
【制度のメリット】
- 労働者のワーク・ライフ・バランスが向上する
- 長期休暇の取得が実現できる
- 残業時間の削減と人材の雇用維持の実現
制度のデメリット
一方で、労働者個人ごとに労働時間に関する専用口座を持つことになるので、その時間をどう使うかも労働者個人の裁量に委ねられます。よって組織やチームによっては、制度をフル活用して休暇を取る労働者もいれば、その分仕事が増えて休暇がほとんど取れない労働者が出てくる可能性もあり、労働者間の格差やトラブルを招く可能性があるため注意が必要です。
【制度のデメリット】
- 組織メンバー間で休暇取得の格差が出てくる
- 相互連携が取れていないと労働者間トラブルに発展する
- 労働時間について労働者自らの管理能力が問われる
これ以外にも、職場環境において休暇が取りにくい状態であれば、結果として制度自体が事実上のサービス残業を助長させてしまう可能性があります。
制度の根本にあるもの
「労働時間貯蓄制度」を実現できたドイツでは、仕事とは労働者個人に割り当てられるものではなく、組織・チームに割り当てるというのが根本的な考えです。
つまり、労働者一人が休暇を取得したとしても業務が回るように組織運営がされているため、誰かが休暇を取得した場合はチームメンバーが不在者のフォローを行ういうのが基本的なスタンスとなります。
結果として、労働者個人にとって休暇を取得することは「誰かに迷惑をかける行為」ではなくむしろ「当たり前の権利」として、労働者全体にも自由に休暇取得はできるものだという認識が根付いているのです。
日本では実現できるのか?
日本では労働の生産性の低さが指摘されています。
日本の労働生産性の低さについてはいくつか要因がありますが、著者が考えるには過去のバブル期における「働いて頑張った分だけ利益が上げられる」といった固定観念が残っていることと、「休むことが誰かの迷惑になる」といった強迫観念があることが要因として挙げられます。
特に日本企業においては、組織・チーム内でも特に頑張っている人に業務が集中する傾向にあり、仕事が「属人化」されているのが一般的です。「仕事の属人化」自体は組織成果を達成するのに必要なことでもありますが、一方で「休暇が取得しやすい人」と「休暇が取得しにくい人」と二極化されることで、いずれにせよ休暇を取得することが「誰かに迷惑をかける行為」という風土を助長させる要因となります。
また法律における規制でも抜け道が多いのが事実であり、労働基準法により労働時間については「1日8時間、1週間40時間」という規制はあるものの、36協定などによって残業が合法的に認められることとと、その残業時間の上限規制についても緩和されているのが実態です。また違法残業があった場合でも罰則対象は会社であり、実際に労働時間を管理する現場監督者まで罰則が科せられるのは稀です。
この様な状況下においては、仮に日本で「労働時間貯蓄制度」を導入しても、積極的に休暇が取得できないことからすれば、残業時間の削減すなわち労働の生産性が改善されることは、あまり期待できないでしょう。
最後に
ドイツのように労働時間貯蓄制度によって最大限の効果が発揮されるには、制度が成り立つための土壌づくりが大切であり、法規制による整備や職場環境の整備が必要となります。日本においても、法規制はもちろんのこと、企業・個人に関わらず「働き方」に対する意識改革が実行できれば、自ずと「労働時間貯蓄制度」の導入も現実味が増してくるのではないでしょうか?
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