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【社労士監修】時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)とは?~取得・導入時のポイントについて解説~

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【社労士監修】時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)とは?~取得・導入時のポイントについて解説~

時間単位年休の趣旨

年次有給休暇は原則「1日」、場合によっては「半日」を基本として取得することとされていましたが、日本における有給休暇取得率というのは諸外国と比べて低く、より有給休暇が取得しやすい環境を作るため、平成22年4月の改正労働基準法により「時間単位年休」が導入され、労使協定や就業規則に定めることにより時間単位での年次有給休暇の取得が可能となりました。

働く個人にとってみても、年次有給休暇を1日取得するには仕事の調整や同僚への配慮等が必要となりますが、時間単位での取得が可能となればそのハードルは低く、例えば病院への通院や市役所での手続き等、簡単な用事を済ませるために取得することが可能となります。

企業にとって従業員の働きやすさは今後の人事戦略としても有効活用できること、個人にとってはワーク・ライフ・バランスを実現できることからすれば、時間単位年休は非常に効果的な手段とも言えます。

時間単位年休とは?

年次有給休暇の基本的な考え方としては、働く人の労をねぎらうという意味で「1日単位」を基本として考えられていますが、時間単位の年次有給休暇とは、文字通り「1時間単位」として年次有給休暇を取得することできる制度となります。

なお時間単位については、1時間単位に限らず「2時間単位」「3時間単位」として年次有給休暇を取得することも可能となりますが、逆に言えば「15分単位」や「30分単位」いった「分単位」での取得はできないこととなります。

時間単位年休を取得・導入する時のポイント

■労使協定の締結と就業規則への記載

時間単位年休は、原則「1日単位」であるところを「1時間単位」に変更して年次有給休暇を取得させることになるため、無条件に取得・導入することができません。そのために①会社と従業員とで労使協定を結ぶことと②就業規則へ記載しておくことが必要となります。

【取得・導入するための条件】
①会社と従業員とで労使協定を結ぶこと
②就業規則にも記載し、その旨定めておくこと

■労使協定で定める内容は4つ

労使協定を結ぶときは、労働基準法第39条4項により予め決められた内容を定めておく必要があります。

【定めておくべき4つの項目】
①時間単位年休を取得できる労働者の範囲
②時間単位年休を取得できる日数(5日以内)
③時間単位年休を取得できる1日の時間数
④1時間以外を時間単位とする場合の時間数

では、これら4つのポイントにおける留意点を確認していきましょう。

①労働者の範囲

労働者の範囲については会社の全従業員とするのが理想ですが、業務内容または職種によっては時間単位年休を取得することが事実上できないケースもあるため、例えば一部の職種や部門を対象として、労働者の範囲を決めることは可能です。

【確認しておきたいポイント】

・利用目的で労働者を限定することはできません。
例:育児のため年次有給休暇を取得する者…etc

【労使協定・就業規則の記載例】

第〇条 時間単位年休の付与
1.会社は従業員から請求があったときは、一の年度における年次有給休暇のうち、〇日を限度として、時間単位の年次有給休暇を付与するものとする。
2.ただし次の号に掲げる従業員については、本協定を適用しない
(1)建設現場の工程ラインにおいて業務に従事する者
(2)フレックスタイム制又はみなし労働時間制が適用される者
(3)就業規則第〇条に定める者(管理監督者の地位である者)

②取得日数

時間単位年休を取得できる日数は5日以内に限られます。つまり5日を超えて定めることはできませんが、5日以内であれば「3日」「4日」と定めることも可能です。

【確認しておきたいポイント】

パートタイム等の短時間労働者については、そもそも年次有給休暇が5日未満の場合あるため、その場合は実際に付与されている日数の範囲内で定めておく必要があります。

【労使協定・就業規則の記載例】

第〇条 時間単位年休の付与日数
1.会社は従業員から請求があったときは、一の年度における年次有給休暇のうち、5日を限度として、時間単位の年次有給休暇を付与するものとする。
2.ただし、年次有給休暇の付与日数が5日未満の者については、付与日数を限度とする。

③1日の時間数

時間単位年休における1日の時間数については、1日単位の年次有給休暇が時間単位の場合「何時間」に相当するのかを定めておくことになります。
なお、時間数については所定労働時間を下回ることでできません。また所定労働時間が日や週によって変動する場合は、1年間の平均所定労働時間が基準となります。

【確認しておきたいポイント】

所定労働時間に1時間未満の時間がある場合は、時間数を切り上げる必要があります。
例:所定労働時間が7時間30分の場合 ⇒ 1日の時間数は8時間と定める

【労使協定・就業規則の記載例】

第〇条 時間単位年休の単位
時間単位年休は、1時間を1単位として、8単位をもって1労働日の年次有給休暇に相当するものとする。

④1単位あたりの時間数

時間単位については、「1時間」を「1単位」とするのが一般的ですが、「2時間」を「1単位」とすることも可能です。

【確認しておきたいポイント】

1単位あたりの時間数は、1日の所定労働時間を下回る必要があります。
※1日の所定労働時間以上の時間数を1単位とすると時間単位年休にはならないため

【労使協定・就業規則の記載例】

第〇条 時間単位年休の単位
時間単位年休は、2時間を1単位として、4単位をもって1労働日の年次有給休暇に相当するものとする。

時期変更権と時間単位年休

年次有給休暇というのは原則「働く個人が休みたい日に休める権利」ですが、事業の運営に支障が生じるおそれがある場合は、会社はその休暇取得日を変更することができ、これを「時期変更権」と言います。

時間単位年休も同様であり、会社の「時期変更権」が認められます。ただし、時間単位年休を日単位に変えたり、日単位の年休を時間単位に変更することはできません。

時期指定権と時間単位年休

平成31年4月の改正労働基準法により、従業員の年次有給休暇の取得率向上を図るため、年次有給休暇のうち5日分については会社がその取得時期を予め指定できることとなりました。もちろん従業員の意見を尊重したうえとなりますが、これを会社の「時期指定権」と言います。

なお、時間単位年休においては「時期指定権」は認められていないため、会社は時期を指定して時間単位年休を与えることはできません。

時間単位年休の繰越

年次有給休暇の時効は2年のため、1年間で実際に取得できる日数は、「今年度分として付与された年次有給休暇の日数」と「前年度分の年次有給休暇の残日数(繰越分)」となります。

例えば、時間単位年休の取得できる日数を「5日」と定めている場合、これは繰越分を含めての日数となるため、前年度に「5日」のうち「3日」を消化しており「2日」の残日数があったとしても、今年度においては「5日」+「2日」=「7日」にはならず、あくまでも「5日」が上限となります。

時間単位年休の日数と時間管理

時間単位年休を導入する場合、年次有給休暇の日数だけではなく、時間数も管理していくこととなります。仮に労使協定と就業規則で、時間単位年休の取得可能日数を「5日」、1日の時間数を「8時間」とした場合、時間単位年休を実際に取得できるのは5日×8時間の40時間であり、この40時間の範囲であれば何回でも取得できます。取得可能日数の「5日」というのは5回という意味ではないので注意が必要です。

厚生労働省「年次有給休暇 時間単位付与」の資料をもとに作成

 

★年次有給休暇の取得義務化についてはこちら↓

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