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【社労士監修】失業等給付の給付制限期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮
雇用保険(失業保険)の基本手当については、自己都合退職の場合、3ヶ月間の給付制限期間が設けられていましたが、法改正により2020年10月1日より「2ヶ月」に変更されました。今回の法改正により、労働者が転職や再就職活動がしやすよう、実態に即した内容になっていますので、今回はその変更点について解説していきたいと思います。
【この記事でわかること】
「自己都合退職の場合、5年間のうち2回までは給付制限期間は2ヶ月です」
「ただし、2020年9月30日以前の離職はカウントされません」
給付制限期間とは?
一般的に離職をした人については、ハローワークで求職の申し込みすることで、雇用保険における受給資格を得ることになり、失業の状態であれば基本手当(失業等給付)を受給することができます。ただし「自己都合退職」「会社都合退職」とでは、受給できるタイミングが異なり、「会社都合退職」の場合は待期期間(7日間)が経過すればそこから基本手当の受給対象期間となりますが、「自己都合退職」の場合は待期期間(7日間)に加え、一定期間は基本手当を受給することができません。この一定期間を「給付制限期間」と言います。
会社都合退職と自己都合退職の違い
給付制限期間があるか無いかは、「会社都合退職」か「自己都合退職」かで変わってきます。「会社都合退職」の場合は、基本手当の受給資格を得る際に「特定受給資格者(会社都合により離職した人)」や「特定理由離職者(正当な理由があり離職した人)」と位置づけられ、会社の倒産や人員整理よる解雇、また通勤が困難になったことによる離職については、基本手当の給付制限期間はありません。
一方で、懲戒解雇等で自己の責めに帰すべき重大な理由で退職した場合や、正当な理由がない自己都合による退職の場合は「一般受給資格者」として位置づけられ、この場合は基本手当の給付制限期間が設けられます。
また会社都合退職と自己退職では失業等給付(失業手当)を受給できる日数も異なります。
給付制限期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮
これまで、正当な理由がない自己都合による退職の場合、給付制限期間は3ヶ月と設定されていましたが、今回の法改正によって令和2年10月1日以降は、5年間のうち2回までは給付制限期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮されることになりました。
※なお、会社都合による「特定受給資格者」や「特定理由離職者」について以前同様に給付制限期間はありません。
実際の給付制限期間については、離職したタイミングによって「2ヶ月」か「3ヶ月」かに分かれるため、ここでは具体的なケースを想定して解説していきたいと思います。
給付制限期間が2ヶ月となる場合
先述したとおり、「2ヶ月」の給付制限期間については、5年間のうち2回までの離職が対象となります。
この5年間については、離職日から遡った5年間となるため、以下の図のとおり3回目の離職日(離職日③)から遡った5年間に、自己都合による離職(離職日)が何回あるのかを確認していきます。
この図のケースでは、離職日②は5年間に含まれますが、離職日①は5年間に含まれないため、5年間のうち自己都合による退職は1回とカウントします。
よって3回目の離職(離職日③)については2回目の自己都合退職となるため、給付制限期間は2ヶ月となります。
給付制限期間が3ヶ月となる場合
一方で、3回目の離職(離職日③)から遡って5年間のうち、離職日①と離職日②の両方が含まれている場合、5年間のうち自己都合による退職は2回とカウントします。
よって、3回目の離職(離職日③)については3回目の自己都合退職となるため、給付制限期間は「3ヶ月」になります。
令和2年9月30日に以前の自己都合退職について
今回の法改正は令和2年10月1日以降の自己都合退職が対象となっているため、それ以前の令和9月30日以前の自己都合退職については対象となりません。
よって、令和2年9月30日以前の離職については給付制限期間は3ヶ月のままであり、また今回法改正の5年間の対象にもならないため、以下の図のように離職日③(令和2年10月1日以降初めての離職)について、給付制限期間は「2ヶ月」となります。
被保険者期間の算定方法の変更
月における労働時間が80時間以上
ここで少し話は変わりますが、同時期の令和2年8月1日以降に、法改正によって雇用保険における被保険者期間の算定方法も変更となっています。
雇用保険における失業等給付を受けるためには、自己都合退職の場合だと離職日以前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上必要となります。
今までは「賃金支払の基礎となった日数が11日以上である月」が被保険者期間として算定されるため、欠勤や休職等で勤務日数が少ない場合、雇用保険には加入しているものの被保険者期間として算定されず、失業等給付が受給できないケースがありました。
これが今回の法改正により「賃金支払の基礎となった日数が11日以上である月」という条件を満たさない場合でも、「その月における労働時間が80時間以上」であることを満たす場合には被保険者期間として1ヶ月を算入できることとなりました。雇用保険については加入条件として所定労働時間が週20時間以上とあるため、週20時間×4週間=80時間と考えるとわかりやすいかもしれません。
また育児休業給付や介護休業給付、高年齢雇用継続給付においても、同じように被保険者期間を算定することとなるため、注意しておくと良いでしょう。
離職証明書の記載方法
自己都合退職の場合、失業等給付を受けるためには離職日以前2年間に被保険者期間が12ヶ月必要となります。実務としては、離職証明書における⑧欄と⑨欄には、離職日からさかのぼって1ヶ月ごとに区切った期間を12ヶ月分記載することとなります。(会社都合退職による特定受給資格者または特定理由離職者の場合、 離職の日以前の1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上となります)
また賃金支払基礎日数が10日以下の月の⑬備考欄には、賃金支払の基礎となる労働時間数として、所定労働時間ではなく時間外労働も含めた総労働時間を記載します。
被保険者期間としての算定方法
ちなみに「賃金支払の基礎となる日数が11日以上ある月」と「10日以下だが賃金支払の基礎となる労働時間数が80時間以上ある月」が混合する場合、各月はどのように被保険者期間として算定されていくのでしょうか?
例として、離職日以前の1年間に賃金支払の基礎となる日数が11日以上ある月が11ヶ月、10日以下だが賃金支払の基礎となる労働時間数が80時間以上ある月が1ヶ月ある場合、この時点ですでに被保険者期間が12ヶ月間あることになります。
しかし、さらに遡って離職日以前2年間で「賃金支払の基礎となる日数が11日以上の月」がある場合、その11日以上ある月を優先して被保険者期間として算定することになるため、結果的に「賃金支払の基礎となる日数が11日以上ある月が12ヶ月あるもの」として被保険者期間が算定されることとなります。
これは被保険者期間として算定された月の賃金が、後に支給される失業等給付(失業手当)の金額に反映されるため、給付額が少なくならないように、より賃金の多い「賃金支払の基礎となる日数が11日以上の月」を優先したものと考えられます。
最後に
働き方改革に伴い、より柔軟な働き方が求められている現在、今回の雇用保険における給付制限の緩和は、転職や起業等の多様な働き方を後押しする形となります。一方で終身雇用や年功序列賃金制度が衰退していることからも、生涯にわたり同じ会社で働くというよりは、自分自身のキャリアと働き方を定期的に見直すことが必要なのかもしれません。雇用保険については働き方と密接な制度であるため、今後の法改正の動向にも注目していく必要がありそうです。
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