在宅勤務とみなし労働時間制度の導入について
はじめに
近年におけるスマートフォンやタブレットの普及や、ワークライフバランスの考え方が浸透してきたことから、在宅勤務(テレワーク)による仕事が注目されるようになりました。
ただ現時点において、在宅勤務の導入については、企業や業種によっては積極的に推進しているところもあれば、まだ消極的なところもあるかと思います。
少し過去のデータになりますが、総務省平成30年通信利用動向調査によれば 、在宅勤務の導入率が高い業種は「情報通信業の25.6%」「金融・保険業の19.5%」であるのに対し、 導入率が低い業種は「卸売・小売業の4.7%」「運輸・郵便業の2.7%」 となっていることから、その業務内容によって在宅勤務がなじまない業種というのもあり、一概に在宅勤務を導入すべきと考えるのではなく、その業種や業務内容によって適切に判断していくことが必要だと思われます。
また、従業員数別に見てみると「従業員数5000人以上の企業が17.6%」と導入率が最も高いですが、それ以下の従業員数の利用の場合は導入率がほぼ一桁台となり、従業員数が少ないほど導入率が低いという傾向にあります。つまりは従業員数の多い大手企業においては、 業務内容が部門別に細分化されていることから、在宅勤務が導入しやすい部門があるため、比較的導入することが可能となりますが、従業員が少ない中小企業の場合、業務内容が細分化できないことや、就業規則の変更が進んでいなかったりと、なかなか導入に踏み切ることができないというのが実情のようです。
そのような現状がありながらも、日本社会においてはワーク・ライフ・バランス(仕事と生活との調和)やディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)という言葉が謳われているように、今後は「働く時間とその中身」にスポットライトがあたることは間違いないため、在宅勤務の導入と推進のため今回は就業規則におけるみなし労働時間制度の導入について紹介していきたいと思います。
みなし労働時間制って何?
みなし労働時間制度については「事業場外のみなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の3種類あり、今回在宅勤務については一番最初の「事業場外労みなし労働時間制」に当たります。
本来労働時間というのは、従業員の健康管理や時間外労働に対する割増賃金の支払いもあるため、会社が適切に把握する必要があります。なお、労働時間の把握については様々な方法があり、タイムカードやパソコン電源のオンオフによる勤怠管理システム、また IC カードによる入退館システムの導入などがあり、これらによって会社が労働時間を適切に把握することができます。
一方「事業場外のみなし労働時間制」というのは言葉の通り、 事業所にいないことが前提となるため、会社がその労働時間を適切に把握することが非常に困難となります。分かりやすく言えば、 以前は製造業を中心とした工場内勤務の労働者が多かったため、 工場にいる時間=労働時間という風に非常に分かりやすく、かつ把握もしやすかったのですが、サービス業などの第三次産業の発展や携帯電話の普及によって、事業所外活動(外回りの営業など) が多くなったことで、そもそも事業所外における活動時間を労働時間として採用するか否かを適切に判断するのが困難となったことが背景としてあります。
つまり在宅勤務については、自宅で仕事をするわけですから当然に事業所にいないこととなるため、この「事業場外のみなし労働時間制」を採用した上で、 予め就業規則や労使協定によって「1日の労働時間を〇〇時間とみなす」 という風に規定を設ける必要があります。
では実際に在宅勤務をしていれば、そのすべてが「事業場外のみなし労働時間制」を採用できるのでしょうか?
この点について、在宅勤務の定義から考えてみましょう。
在宅勤務の条件とは?
大分前の行政通達になりますが、在宅勤務については次の三要素を満たす必要性があります。
1.当該業務が起居寝食等、私生活を営む自宅で行われること
2.当該情報通信機器(携帯電話・パソコンなど)が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
3.当該業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
まず①については在宅勤務なので場所は「自宅」でということになります。
次の②については、業務内容によって携帯電話やパソコンを使用する場合(会社で貸与するケースもあるかと思いますが)は、通信可能な状態(電源オンオフなど)とするか否かは、従業員の裁量(判断)で行われることとしており、これは携帯電話やパソコンが常時通信可能な状態とするように会社が指示するとなると、事実上は会社の指揮命令下にいる状態、つまりは労働時間を把握することができる状態とみなされ、労働時間を適切に把握する必要性が出てくることとなります。(パソコンの電源ONOFFで勤怠管理しているケースを想像するとわかりやすいかもしれません)
最後の③については、電話やメール等で随時指示なされているとなると、これも当然会社の指揮命令下にあり、その時々の時間がわかるわけですから、労働時間を適切に把握する必要が出てくることとなります。
つまりは上記の3要素を満たすことが在宅勤務の条件となり、つまり「事業場外のみなし労働時間制」を採用できることとなります。
では最後に「事業場外のみなし労働時間制」が採用できたとして、在宅勤務を導入した場合の留意点について確認していきましょう。
在宅勤務を導入するにあたっての留意点は?
在宅勤務を導入するにあたっての留意点については、会社側と労働者側の視点でまとめると以下の通りとなります。
会社側
・就業規則又労使協定において就業場所は「自宅」と明確に限定しておくこと
・携帯電話やパソコンなどの情報通信機器については、常時通信可能な状態としておくよう管理者が指示しないこと。(予め就業規則に定めていくことがベター)
・業務内容よって常時通信可能な状態としておく必要がある場合、または管理者による随時指示をする必要がある場合は、労働時間を管理する必要があるため、従業員へは「始業時」と「終業時」に電話またはメール等での報告を求めておくこと。
・残業は原則禁止として、残業の必要性がある場合は管理者の承認を得ることを条件とすること。
労働者側
・業務は必ず「自宅」で行うこと。
・業務内容よって常時通信可能な状態としておく必要がある場合、または管理者による随時指示がある場合は、労働時間を把握してもらえるよう、管理者へは「始業時」と「終業時」を電話またはメール等での報告をしておくこと。
・未承認の時間外労働については割増賃金等が支払われない可能性が高いため、業務上やむを得ず時間外労働を行う場合は、管理者へ必ず相談すること。
以上のように在宅勤務を導入するにあたっての留意点をまとめると、やはり会社と従業員の双方に共通する点が多く、お互いに協力していくこと必要不可欠であり、在宅勤務についてはどちらかが一方的に要請するものではなく、 お互いの対話によって導入の可否を検討していくことが必要だと思われます。なお、この点については女性活躍推進や男性の育児への積極的参加など働き方改革が進んでいく中で、より優秀な人材を確保するための人事制度戦略として活用でき、中小企業向けての助成金等もあることから、検討して行く価値はあるでしょう。
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