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【わかりやすく解説】同一労働同一賃金とは何か?一体何が変わるのか?

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【わかりやすく解説】
同一労働同一賃金とは何か?一体何が変わるのか?

はじめに

ここ数年、働き方改革や女性活躍推進法の影響により、働き方に対する考え方が大きく変わって来ています。その中の1つとして「同一労働同一賃金」という考え方があります。現在厚生労働省においては、同一労働同一賃金ガイドラインを策定しており、簡単に言えば、正規雇用(一般的にいう正社員)と非正規雇用(契約社員・パートタイム・派遣労働者等)との間における、賃金その他待遇に関する格差を是正していくというものです。では本当に、同じ仕事をしていれば、同じ給与がもらえるのか?、また何故今になって同一労働同一賃金という考え方が注目を浴びているのか?まずは時代背景から見ていくことにしましょう。

時代背景

・日本の企業はメンバーシップ型雇用・内部労働市場を重視する

従来の日本企業の人事制度の特徴として、終身雇用制度、年功序列賃金、新卒一括採用が挙げられます。これは製造業・自動車産業等の第2次産業を中心に高度経済成長期を支えてきた企業が、一定の労働力を確保するため、まずは労働者の身分保障としての終身雇用制度を確立し、また第2次産業では技術力(経験・スキル)が重要視されてきたことから、勤続・経験年数に伴う年功序列賃金制度を確立してきた経緯があり、またそのような制度のもと、従業員の年齢別構成比を維持するため、新卒一括採用を行ってきた背景があります。

このような人事制度のもと正規雇用となった社員が、世間一般でイメージされている「正社員」であり、「正社員」は転勤や配置転換(ジョブローテーション)という名の下にキャリアを積み、またそのキャリア形成に沿ってジョブローテーションが行われることで、次第に企業内での人材価値を高めていくようになることから、【内部(企業内)労働市場】においては最適とも言われています。一方で転勤や配置転換については原則断れないことや、 残業も当たり前となることから、「就職」ではなく「就社」とも言われているように、企業への忠誠心が求められることからも【メンバーシップ型雇用】とも言われています。

・家庭モデルは片稼ぎが前提だった。

昭和から平成にかけての家族モデルは、夫:会社員、妻:専業主婦、子供:二人というのが当たり前であり、現在も普遍的なイメージとして残っているはないでしょうか。個人的には、いくつかの国民的アニメにおいても妻が専業主婦であり、夫婦共稼ぎを家庭像としているアニメはあまり見られないことから、まだまだイメージ転換を図ることが難しいと思われます。

このような片稼ぎモデルを前提とした場合、夫は会社員=正社員であることから1日の時間をほぼ労働時間に費やすこととなり、仮に専業主婦である妻が家計を補助するためには、家事育児との調整からパート・アルバイトとして仕事に従事することが一般的とされていました。

・今は夫婦共稼ぎが当たり前の時代になった

今では女性の社会進出はもちろんのこと、男性の家事育児への積極的参加が求められるようになり、性別による働き方・家事育児の業務分担の垣根が低くなってきたのと同時に、夫婦共に会社員=正社員として仕事に従事しながらも、家事育児を行っている家庭も徐々に増えつつあります。そうすると当然にその夫婦を正社員として雇用する企業においても、既存の人事制度では労働力となる人材の確保が困難であることから、 その設計を見直す必要性が出てきました。

今後の日本企業は
ジョブ型雇用・外部労働市場へと
移行する

今の日本の企業においては、高度経済成長期とは逆に国内市場の縮小とともに、終身雇用制度を維持することが困難とも言われています。一方労働者側(男女の性別にかかわらず)からしても、家事育児とのバランスを考えた上で仕事に従事することが必要なことから、『収入を基軸とした働き方』から『時間を基軸とした働き方』へとシフトしていくことになるでしょう。つまり労働者側からしてみれば、仕事と家庭の時間バランスが取りやすい働き方・企業をその都度選択していくことになり、企業側においても従来の長期雇用ではなく、適時かつ適材適所に人材を確保するための人事制度を設計していくこととなれば、 今後は労働時間と職務内容が明確である【ジョブ型雇用】(欧米やヨーロッパではこちらが基本)が中心となっていくと考えられます。それに伴い労働者個人のキャリア形成も一企業にとどまることなく、複数の職業(または企業)を通じて形成されることから、内部労働市場から【外部労働市場】へと転換していくことになるでしょう。この点すでに「多様な正社員制度」を導入している企業も増えており、ライフステージによって年齢や性別、地域に関わらず勤務場所・勤務時間、職務内容等を選択できるよう工夫しており、、また就業規則等による画一的な労働条件ではなく、個々との労働契約において自由に労働条件を決めていく企業もあります。

新しい働き方が必要だからこそ
同一労働同一賃金

今後の働き方を考えるにあたり、労働者側においては仕事と家庭との時間バランスが必要なこと、また企業側においては人材の長期雇用が困難であり、適時適材適所の人材確保が必要なことから、企業としては新しい人事制度、労働者としては新しい働き方を設計していかなくてはなりません。

この点において今はまだ少数派ですが、正社員の中でも一部、 仕事と家庭の両立を維持するため、勤務地限定正社員、短時間正社員またはスペシャリストと呼ばれる職務限定正社員などの多様な正社員制度で活躍されてる方もいらっしゃいますし、パート・アルバイト、契約社員から正社員へ転換されて活躍されている方もいらっしゃいます。

しかし一方で、現在においても正社員(正規雇用)とパート・アルバイト等(非正規雇用)との間では賃金その他処遇の壁が厚く、 画一的な人事制度を採用している企業が多いため、例えばパート・アルバイトの非正規雇用の人が、十分な能力と経験を備えているにも関わらず、長期労働時間による家庭への影響を懸念し正社員への転換を避けたり、逆に正社員(正規雇用)の方が子供の出産に伴い、本来であれば 育児(家庭)に時間を費やすべきところ、柔軟な人事制度がないことによって雇用形態を見直すことができず、退職される人が多いのが実情です。

すなわち新しい人事制度、新しい働き方を設計するには、 この現状の正規雇用と非正規雇用の賃金処遇の壁を取り払うことが必要不可欠となることから、今この『同一労働同一賃金』が注目を浴びているのです。

同一労働同一賃金について解説

最初に、同一労働同一賃金と聞くと、正規雇用・非正規雇用等どのような雇用形態であったとしても、同じ業務に従事していれば同じ賃金を受け取れるという風にイメージされている方も多いのではないでしょうか。 しかし、近年争われた裁判例を踏まえると、必ずしも全く同じになるというわけではなく、今現在の正規雇用・非正規雇用の間にある賃金その他処遇の格差において不合理な点を是正していき、両者間の均等もしくは均衡のとれた待遇を確保することが目的とされており、両者間の賃金その他処遇の格差において合理的な理由があれば、今後においても、ある程度の格差は継続していくものと考えられます。そこで、ここではどのような場合において格差が是正されるのか、 具体的に触れていきたいと思います。

・二つの裁判例がすべての始まり

正規雇用と非正規雇用の間にある賃金その他処遇の格差において、過去に争われた裁判例の中でも特に有名なのが「ハマキョウレックス事件」「長澤運輸事件」ではないでしょうか。この裁判例は正社員(正規雇用)と契約社員・嘱託社員(非正規雇用)の 賃金その他処遇の格差における不合理性の考え方について触れており、今後の裁判においても考え方の基準として採用される可能性が高いものと思われます。

 

・まずは正規雇用と非正規雇用の違いを知ること

正規雇用と非正規雇用という雇用形態の違いは、働き方の違いであることのほか、企業が労働者側に求める職務の内容の違いにもなります。今回の同一労働同一賃金においてはその違いを以下の三つの点で整理しています。

①業務の内容の同一性

職務の内容については、業務の内容(職種)と責任の程度で判断されることとなり、仮に正社員とパートとは同じ業務に従事していたとしても、それだけでは同一性は認められず、与えられている権限の範囲や業務成果に対する役割、トラブル時の対応などを考慮して総合的に判断していくことになります。

②業務内容および配置転換の範囲

職務内容と配置転換の範囲については、簡単に言えば職種転換と転勤の範囲となります。
正社員(正規雇用)については企業内におけるジョブローテーションにより管理者候補として人材育成が進められていくため、職種転換と転勤があることが多く、逆に非正規雇用の労働者については一般的に職種転換と転勤は無いもの(もしくは限定的)と思われますが、非正規雇用の労働者についても正社員と同等の職種転換と転勤がある場合については、その同一性が認められやすいものと考えられます。また就業規則などにおいて正社員への職種転換と転勤が定められているにもかかわらず、実態としてそのような事実が長期にわたり認められない場合においても、同一性が認められやすいものと考えられます。

③その他事情

その他事情の代表的なものでは「正社員の転換制度」「高齢者の再雇用制度」などがあり、正規雇用と非正規雇用との賃金その他処遇の格差が生じ得る事情、もしくは是正するための代替手段などがその他事情として挙げられます。

・同一労働同一賃金によって是正される格差は?

①給与

給与については正規雇用は月給制、非正規雇用は日給・時給制を採用しているケースが比較的多いものと考えられます。これは両者間の業務の内容や責任の程度が異なり、 正規雇用である正社員については職務内容が無制限かつ所定外労働時間があることが前提となっていること、 非正規雇用の労働者については一定の職務を一定の労働時間内で処理することが求められていることから、時間管理のしやすい非正規雇用の労働者は日給・時給制、時間管理が難しい正社員(正規雇用)は月給制とすることは、企業経営の合理性から認められています。よって いきなり非正規雇用の労働者が月給制となって、 正社員(正規雇用)と同一の賃金をもらうことは現実的にないと考えて良いでしょう。(もちろん職務の内容が正社員と近似している場合、月給制と日給・時給制だけの違いで賃金にかなりの格差がある場合は是正されるべき対象となるでしょう。)

②各種手当

各種手当については、企業や業種によって差があるものと思われますが、基本的な考え方としては正規雇用と非正規雇用の格差は是正される可能性が高いでしょう。是正される可能性の高い手当としては、職務の内容に付随する手当であり、例えば時間外労働手当や休日労働手当 、また皆勤手当や通勤手当、業種によっては作業手当などが含まれ、これらのものが現時点で支給されていないとなれば、 今後格差是正により支給される可能性は高いと思われます。

一方で、支給方法については正規雇用と非正規雇用とで同一とすることまでは求められておらず、正規雇用には一時金として支払い、非正規雇用には代替手段として時給もしくは日給に加算する方法をとること、またその結果として支給額に多少の乖離があったとしても、支給される額と職務内容との関係性を考慮したうえで一定の合理性があれば、その差は認められるものと考えられます。※住宅手当については、転勤の有無によって家賃や引越し代等の負担が異なることから、正規雇用に転勤があり、非正規雇用に転勤がなければ、その格差については概ね認められるものと考えられます。

③賞与・退職金

賞与・退職金について、支給するかしないかは企業の自由裁量であり、特段法律により支払いが義務付けられているものではなく、就業規則に定めることにより支給の有無が決定します。 よって原則、正規雇用の正社員に対して賞与・退職金を支給する旨規定しており、一方で非正規雇用の社員について支給しない旨規定していたとしても、企業の裁量権の範囲であることから特段問題が無いように思われます。
しかし、賞与・退職金についてはその性質上、賃金の後払い、功労報償、生活保障との性質を有しており、過去裁判例においてもその性質が認められ、非正規雇用社員に対して賞与・退職金を支給しないというのが不合理と認められたケースもあります。
特に勤続年数の多い非正規雇用社員については、会社への貢献度も高いことから功労報償の意味合いとして、賞与・退職金を支給することが適切であるものと考えられ、今後は一定の賞与・退職金が支給される可能性が高くなるものと考えられます。

ただし、賞与・退職金の性質上、職務の内容や職務転換・転勤の範囲によってその支給額に差が設けられることは認められるものであり、また先述した通り企業の裁量権に委ねられる部分もあるため、正規雇用と非正規雇用とで同一の賞与・退職金が支給されることは現実的ではないと考えられます。

最後に

同一労働同一賃金という言葉からするイメージと実際の内容について、ギャップを感じた人もいると思いますし、想定の範囲内の方もいらっしゃることかと思います。
何分、同一労働同一賃金の制度自体がまだ新しいことから、今後時間の流れとともに格差是正に対する考え方も変化したり、新しい考え方も出てくるかと思われます。なお、同一労働同一賃金については、2020年4月1日から「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善などに関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)が施行され(中小企業については2021年4月1日から施行)ており、今後さらに皆さんにとっても身近なものとなってきます。その際は仕事と家庭とのバランスを考えて、自分らしい、新しい働き方をぜひ見つけてみてはいかがでしょうか?

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