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【社労士監修】残業時間が80時間は危険?過労死ラインについてわかりやすく解説!
過去には「24時間働けますか?」と言われたように、「残業は当たり前」「残業するのが美学」と思われていた時代もありましたが、今でもそういった風潮が少し残っている会社もあるのではないでしょうか?
一方で過労死やうつ病等の精神疾患にかかる人も多く、健康状態を壊してまで働くことに疑問を持つ方も多くいると思います。
実際に、今現在会社で働いている方の中にも、
「残業が多くて疲れた・・・」
「うちの会社って残業多くない?ブッラク企業?」
と悩まれている方も、多くいるのではないでしょうか?
今回記事では残業時間における80時間ライン、すなわち「過労死ライン」について、わかりやすく解説していきますので、残業している皆さんの健康維持のためなれば幸いです。
【この記事でわかること】
「過労死ライン」を知ることで
「健康を大切しながら働くことができます」
「自分の会社がブッラク企業か判別できます」
労働時間は「原則1日8時間」
労働時間については、労働基準法第32条に定めらているとおり、原則として「1日8時間、1週間40時間」を超えて、会社は社員を働かせることはできません。
もしこれを超えて社員働かせた場合は法違反となり、会社に罰則として「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
36協定により時間外労働が認めらている
労働基準法では上記のとおり、1日かつ1週間の労働時間の上限が設けられていますが、昨今の社会経済情勢を踏まえると、この労働時間の範囲内でしか社員が働けないとなると会社経営は厳しいものなりますし、また会社経営が悪化するとなると、そこで働く人達の雇用問題にも発展していきます。
そういった中で、例外的に労働時間の上限を超えて働くためには「36協定」を締結する必要があります。
「36協定」とは労使双方の合意のもとに時間外労働を認めることを言い、36協定が締結されれば、会社は労働時間の上限を超えて社員を働かせても罰則はありません。
36協定における時間外労働の上限規制
ただし、36協定により時間外労働が認められたとしても、無制限に働かせていいわけではなく、働く人の健康や精神衛生を損なわないよう、時間外労働についても上限規制が設けられており、原則として「1ヶ月で45時間、1年間で360時間」を超える時間外労働は認められません。
特別条項付きで上限規制が緩和されている
一方で、突発的・臨時的な業務が突如発生した場合、通常の時間外労働に加えて、臨時的な時間外労働が発生する可能性もあります。
例えば、日常的に時間外労働が1箇月30時間発生していたとして、突如機械トラブルによって臨時的な業務が発生し、さらに20時間の時間外労働が発生した場合、36協定における1箇月45時間の上限規制を超えることになります。
この場合は、さらに「36協定における特別条項付」により、「時間外労働+休日労働を合わせて1箇月100時間」、「時間外労働のみで1年間720時間」までなら、時間外労働が認められることとなります。
ただし通常の36協定と異なるのは、あくまでも突発的・臨時的な業務に対応することが条件となっており、特別条項付については、その条件を明確に記載しておかなくてはならず、漠然とした条件では認められていません。
実際に働いた場合どうなるのか?
ここまで、36協定によって上限規制はあるものの、合法的に時間外労働が認められていることを説明してきましたが、実際に36協定の特別条項付である「時間外労働と休日労働が1箇月100時間」の場合を想定してみましょう。
労働基準法による1日8時間の労働時間を前提として、「9:00~18:00(休憩1時間含む)」の勤務時間、週休2日制を基本とした場合、1日約4時間の時間外労働と、月2回の休日出勤(1回あたり10時間)が想定されます。
つまり1日の勤務時間は「9:00~22:00(休憩1時間)」となるため、通勤時間で往復2時間(都心での一般的な通勤時間)、睡眠時間で7~8時間を費やした場合、1日のフリーな時間は1~2時間しかないことになります。
通勤時間がより長い場合は、睡眠時間が削られることにもなりますし、またフリーな時間があるとは言えども、出勤準備、食事・洗濯・お風呂等の時間を考えると、息つく暇もない1日となるのではないでしょうか?
過労死ラインとは?
上記のとおり36協定の特別条項付があることを理由に、1箇月あたり100時間の時間外労働+休日労働があると、働く人の健康と精神衛生を損なうことは目に見えており、昨今ではこの長時間労働が切っ掛けとなり、「過労死」「過労による自殺」が問題視されるようになりました。
ここでは過労死の定義と、過労死ラインについて詳しく解説していきます。
過労死の定義
過労死等防止対策推進法第2条には「過労死等」として、以下のように定義されています。
【過労死等の定義】
- 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
- 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
法律においては長時間労働における「過労死」「過労による自殺」だけではなく、脳梗塞やうつ病なの疾患も含まれています。
なお、過重労働や長期間労働により疲労やストレスが解消されない中で、仕事を続けていた場合は死亡や疾患につながることが、医学的な知見からも判明されており、さらに疲労やストレスが蓄積されていくと正常な判断ができなくなり、精神的抑止力が阻害され、自殺行為を思いとどまることができなくなる可能性があるとされています。
過労死ラインとは?
過労死については労働環境だけではなく、本人の基礎疾患や既往症、またストレス耐性などが影響してくるため、一律すべての人の原因と結果が同じであるとは限りません。そのためいざ過労死が起きた場合、「会社の労働環境に原因があったのか?」それとも「本人のストレス耐性の問題だったのか?」が争点となるケースがあります。
もし、過重労働や長時間労働などの労働環境が原因であれば、当然に労災認定となるため「労災認定となるのか?ならないのか?」ついては一定の基準が必要となり、それが「過労死ライン」と呼ばれるものです。
すなわち「過労死ライン」とは、疾患や死亡・自殺に至るリスクが高まる労働時間の基準(目安)を示しており、基準を超えている場合は業務に起因するものとして労災認定される可能性が高まります。具体的には「発症前1ヵ月間に100時間」あるいは「発症前2~6ヵ月間平均で80時間」を超える時間外労働の場合は、業務と発症との関係性を認定できるとされています。
【過労死ライン】
・「発症前1ヵ月間に100時間」あるいは「発症前2~6ヵ月間平均で80時間」を超える時間外労働
もし「過労死ライン」がなかった場合、劣悪な労働環境が精神障害や疾患または死亡を引き起こしたことが判別しずらくなり、使用者責任(会社責任)を追及することが難しくなります。また労災保険の対象になることも困難となり、労働者本人またはその遺族が適切な補償も受けることができずに泣き寝入りということもありえます。つまり過労死ラインとは長時間労働から労働者を守るための基準とも言えます。
ちなみにこの「過労死ライン」というのは、労働基準法36条で規定されている「個人単位での時間外労働の上限規制」と同じであり、この「過労死ライン」を超えて社員を働かせた場合、会社は法違反となり罰則の対象となります。
最後に
冒頭でも触れましたが「24時間働けますか?」が流行した時代というのは、インターネットも普及していなければ、携帯電話やスマホもなく、メールでの連絡はもちろんのことZoom等のオンライン会議がなかった時代です。
例を挙げるとすれば、昔は本社会議に出席するため地方から東京へ行く移動時間はパソコンも携帯電話もなかったため、勤務時間ではあるもののフリーな時間でもありました。
しかし今ではどうでしょうか?
移動時間中はパソコンやタブレットで資料作成の時間に充てたり、会社から携帯電話に連絡があったり、また昨今では移動時間を省くためオンライン会議にしたりと、1日の勤務時間は変わらないものの、時間あたりの「仕事の濃度」は昔よりも今の方が濃く、その分疲労やストレスが蓄積されやすい時代とも言えます。
これからの働き方に必要なのは時間ではなく「仕事の濃度」であり、短時間で濃い仕事をすることで生産性も上がります。もし勤めている会社が「時間の長短」のみでしか評価していないとなると、ブッラク企業もしくはそれに近い会社とも言えるのではないでしょうか?
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