就職・転職・退職

【2021年4月からスタート】中途採用比率の公表義務化から考える外部労働市場への期待

シェアよろしくお願いします!

【2021年4月からスタート】中途採用比率の公表義務化から考える外部労働市場への期待

最近では在宅勤務等のリモートワークが注目されてきており、リモートワークを始めて経験された方も多いのではないしょうか?これからますます働き方改革が進み、企業も働く個人にとっても、働き方の変革が求められている時代なのは間違いありません。そのような中、実は「労働政策総合推進法」が改正され、2021年4月1日から中途採用比率の公表が義務化されることになり、企業は中途採用比率をホームページ等で公表することが義務づけられました。今回は公表の義務化の内容や、公表義務化の背景について解説していきます。特に公表義務化の背景については、今後働く個人へも影響してくる内容のため、企業のみならず個人の方もぜひご参照ください。

中途採用(外部労働市場)の現状

日本の企業(特に大手企業)はメンバーシップ型雇用を中心としているため、一度人材を採用すると、企業内における教育研修やジョブローテンションを通じて社員のキャリア形成を図っていきます。また時代背景として高度経済成長期における「終身雇用制度」「年功序列型賃金制度」「新卒一括採用」という人事制度設計が上手くマッチしたことで『新卒で大手企業に就職すれば将来は安定だ』との概念(成功ストーリー)が構築されていくことになり、一方で日本の国内において転職市場はあまり開かれないまま現代に至ります。
なお、近年では働き方に対する価値観も変化してきており、一生涯同じ会社に勤務するというよりは、転職を通じてキャリアアップを図りたいという人も増えてきていますが、諸外国に比べるとまだまだ転職市場が活発しているとも言い難い状況です。

実際に厚生労働省の「中途採用に係る現状において」は、2017年度における新卒・中途採用比率について、従業員規模5,000人以上の大手企業においては中途採用比率(正社員採用)が40%を下回る結果となっています。特に従業員規模が大きい程、新卒採用比率が高く、中途採用比率は低い結果となっているのでが特徴です。
また転職経験者と転職未経験者との役職別割合を見ると、「役職なし」では転職経験者の割合が高いですが、「役職あり」では転職未経験者の割合が高いという結果になっています。これについては、そもそも転職市場自体が「派遣社員」「契約社員」「パート社員」をメインとして開かれており、「正社員」にまでは浸透していないことも考えられますが、前述したメンバーシップ型雇用を中心とした企業文化も少なからずとも影響しているものと考えられます。

中途採用比率の公表義務化の目的と背景

このような中途採用の現状に加え、企業の中途採用においても「35歳未満」では約95%の企業が採用に積極的である一方で、年齢層が高くなるにつれ採用の積極性は弱まり、「35歳以上45歳未満」では「良い人材であれば採用したい」が最多になる一方、45歳以上では「あまり採用は考えていない」が最多となっていることからすれば、現状のままだと転職市場が活発化するとは考えにくいでしょう。
しかし時代は変わり、現在では日本の国内市場は一定水準を維持するに留まり、企業活動も大きな拡大を見込むことが非常に困難になりました。また「AIによる技術革新の進展」と「人口減に伴う国内市場の落ち込み」を考慮すると、企業における人件費比率は高騰化していくことになることが想定されます。

なお、日本の雇用は「解雇権濫用法理」に基づき、従業員を解雇するには相当の合理的理由が必要であり、企業にとってはかなりハードルは高いのが現状です。そのため企業としては一度従業員を雇用するとなると事実上は解雇できないこととなります。よって人件費比率の高騰化を避けるためには、企業は自社の内部労働市場における人材の囲い込み(適材適所の人材確保)ではなく、転職市場などの外部労働市場から人材を調達(適時適材適所の人材確保)する必要、すなわち人材(雇用)の流動化を図っていく必要があります。最近のニュースで、経営陣側から「終身雇用は維持できない」などのコメントがあったり、また従業員を個人事業主化して業務委託するなどの取組みを行っている企業があるのはそのためです。

つまり、企業側からすると転職市場という外部労働市場が活発化すれば、従業員を解雇せずに人材の流動化が図られること、また中途採用を通じて外部労働市場から高度な技術や専門性、豊富な経験を有す る人材を確保することができるようになります。逆に働く個人からしても、転職市場という外部労働市場が活発化することで、年齢に関わらずセカンドキャリアを形成していくことができ、また解雇されたとしても次の就職先が見つかりやすくなります。

こういった企業と働く個人にとってメリットがあることはもちろんですが、国としても今後の労働人口の高齢化と労働人口の減少(2040年までに約1,200万人が減る予測)という、まさに緊迫した問題を抱えており、労働人口の減少は社会保険制度・年金制度における財源難にも直結してくる問題であるため、「会社を限定することなく、労働者の雇用を確保する」ためにも、外部労働市場を活性化させていく必要があり、中途採用比率の公表を企業に義務付けることで、企業の中途採用比率を向上させていくことが狙いだと考えられます。

中途採用比率の公表義務化の内容

中途採用比率の公表義務化の内容としては、確認しておく必要があるのは以下の3点です。

企業規模について

情報公表を求める企業の対象は、中小企業の中途採用が既に活発であることや中小企業への負担を踏まえ、当面は労働者数301人以上の大企業についてのみ義務化されました。この点については実際に300人以下の中小企業の場合は中途採用比率はもともと高く、今回は中途採用比率が低い企業向けへの義務化と考えられます。

公表する項目について

公表する項目については、正社員(正規雇用労働者)の採用者数に占める正社員(正規雇用労働者)の中途採用者数の割合となりました。継続的に企業における中途採用実績を確認するため、直近3事業年度の割合を公表することとなります。この点については正社員(正規雇用労働者)のみが対象となっていますが、正社員以外の非正規雇用と呼ばれている派遣社員や契約社員、パート社員はもともと転職市場=中途採用がすでに常態化しているため対象外となっているものと考えられます。

公表の方法について

公表の方法については、企業のホームページ等の利用などにより、求職者が容易に閲覧できる方法によると定められています。この点については「求職者が閲覧」と定められているため、企業ホームページの採用ページで公表する方法が適切だと考えられます。またホームページがない場合は求人募集に予め記載しておく方法で公表するのも適切だと考えられます。

 

公表義務化のその後は?

公表義務化の目的は前述したとおり「雇用の流動化」です。企業としては人件費比率の高騰化を抑制することができ、働く個人としては主体的なキャリア形成が可能となります。また国としても雇用確保は社会保険・年制度の財源確保にもつながることから、今後中途採用=転職市場(外部労働市場)が活発していくことは間違いないでしょう。
ちなみに日本企業の従来の雇用文化の特徴として「終身雇用制度」と「新卒一括採用」という文化がありますが、この2つにとって代わるのが「早期退職優遇制度」と「通年採用(中途採用)」という新しい雇用文化だと著者は考えています。そういった観点からすると、今回の中途採用比率の公表義務化は企業を対象としていますが、公表義務化が外部労働市場の活性化につながり従来の雇用文化が変化するとなれば、働く個人の働き方にもつながる話です。ついては時代を先読みすることで皆さんの新しい働き方のヒントとなれば幸甚です。

★早期退職優遇制度について知りたい方はこちら↓

シェアよろしくお願いします!

【社労士監修】フレックスタイム制の清算期間とは?~3ヶ月まで延長する時の注意ポイントを解説~前のページ

児童手当「特例給付」はなぜ廃止されるのか?国の本当の目的は【働き方改革の促進】次のページ

ピックアップ記事

  1. 【初心者も安心】おすすめの副業サイト5選

関連記事

  1. 時事問題

    【わかりやすく解説】同一労働同一賃金とは何か?一体何が変わるのか?

    【わかりやすく解説】同一労働同一賃金とは何か?一体何が変わるのか?…

  2. 就職・転職・退職

    個人事業主として働きながら、配偶者(夫)の扶養に入る方法は?

    働き方改革によって、働き方の多様化が進んだことから、今では専業主婦家庭…

  3. 就職・転職・退職

    転職で成功する人・失敗する人の違い~9つのポイントを解説~

    転職で成功する人・失敗する人の違い~9つのポイントを解説~…

  4. 時事問題

    育児休業給付金が給与の80%まで引き上げ??政府が検討へ

    引用記事:「育児休業給付金、給与の80%へ引き上げ 男性取得推進へ検…

  5. 雇用制度

    ゼネラリストとスペシャリストのキャリア形成の違い、自分に合った働き方は?

    ゼネラリストとスペシャリストとの違い、自分に合ったキャリア形成…

  6. 時事問題

    【社労士監修】今の若者は出世したくない?いえ興味がないだけです

    最近「出世したくない」という若手社員が増えていることで、会社の上司い…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

Presented by

人気記事

ピックアップ記事

  1. 【社労士監修】児童手当 2024年10月から高校生までが対象…
  2. 【社労士監修】育休中に副業しても大丈夫?副業の方法と給付金へ…
  3. 【社労士監修】会社を辞めた後の住民税の支払いはどうなるのか?…
  4. 【社労士監修】2025年から始まる時短勤務給付金(育児時短就…
  5. 「会社を辞めたい理由」を検索し始めたときが転職を考えるタイミ…
  6. 会社員が副業した場合、確定申告はいくらから必要なのか?
  7. 【社労士監修】育児休業給付金は手取り賃金の約90%~もらえる…
  1. 労働時間・休暇・休日

    【パパ休暇】【パパママ育休プラス制度】 男性の育休期間はいつからいつまで?
  2. 労働時間・休暇・休日

    【社労士監修】育児休業期間はいつまで?延長出来るケースも徹底解説
  3. 労働時間・休暇・休日

    【社労士監修】2022年10月改正版「育児休業期間中の社会保険料免除はいつまで?…
  4. 労働時間・休暇・休日

    【パパ休暇】【パパ・ママ育休プラス】育児休業給付金の延長と上手な活用方法をわかり…
PAGE TOP