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【社労士監修】職能給と職務給の違いは?給与が上がらない理由はここにあった!

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【社労士監修】職能給と職務給の違いは?給与が上がらない理由はここにあった!

日本企業の賃金形態は、終身雇用を前提として「年功序列賃金」を採用している企業は多く、年齢が上がるにつれて給与も増えるというのが一般的でした。

一方で、仕事においては組織目標が掲げられ、目標達成に向けて汗を流す中、残業しながらどんなに仕事で成果を上げたとしても、

「あれだけ成果を上げたのに、なぜ給与は上がらないのか?」

と思われている方も多いのではないでしょうか?

今回記事では日本企業の賃金形態として「職能給」について触れながら、最近注目されている「職務給」との違いについても解説しています。なぜ成果を上げても給与が上がらないのか?その理由を紐解いてみましょう!

【この記事でわかること】
「成果を上げても給与が上がらない仕組みがわかります!」

退職理由が「給与に対する不満」が大半

最近では日本企業においても成果主義や評価主義を採用し、給与に反映させる仕組みを導入している企業は増えつつあります。また日本企業は主に「メンバーシップ型雇用」といい、「人に仕事を与える」という考え方を持っていますが、今では欧米企業の「ジョブ型雇用」のように「仕事に人を当てはめていく」といった新しい考え方を取り入れている企業も増えています。

一方で、時代の流れとともに雇用形態や賃金形態の多様化は進んではいるものの、働いている社員からすると、会社への不満というは尽きないものであり、その中でも給与に対する不満を持つは多いのではないでしょうか?

実際に会社への不満に対するアンケートにおいても、「給与が低い」「昇給がない」といった声は必ず上位に含まれています。

給与に対する直接的な不満もあれば、人事評価制度に対する不満や仕事量の多さに対する不満など、給与に対する間接的な不満というも上位に含まれていることからすれば、働いている方の大半が給与に関する不満を持っていることがわかります。

日本企業の給与は「職能給」

この給与に関する不満がおこる原因の1つが、日本企業が主に採用してる「職能給」という賃金形態です。

なお、企業が給与を決める際に大事なポイントとなるのが、基本給(残業代や手当以外の給与)を何を基準として決定するのか?という点です。

一般社団法人日本経済団体連合会が公表している『2019年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果』では、以下の図のとおり職能給の他、年齢や勤続年数による勤続給、または業績・成果に伴う業績給など多岐にわたりますが、調査結果においても「職能給」を採用している企業が多いことがわかります。

「職能給」の特徴

日本企業の多くが「職能給」を導入していることがわかった段階で、次に「職能給」について解説していきます。

「職能給」というのは、簡単に言えば「その人が持っている能力に対する給与」ということになりますが、能力については、その人が培った「知識」や「経験」というのもあれば、習得した「資格・スキル」や「技能」、またヒューマンスキルとしての「コミュニーケーション能力」や「対人関係構築力」など多岐にわたります。

なお、「職能給」における能力を「職務遂行能力」と定義することもありますが、より深く追究すれば、その人が持つ「潜在能力」となります。

この点について詳しく解説していくと、仮に「職能給」を「職務遂行能力による給与」と定義した場合、転勤によって全く異なる部門へ配属となると、A部門での職務遂行能力がB部門で通用するは限らず、その場合「職務遂行能力」は著しく低下することとなり、本来であれば基本給(職務給)も下がることとなりますが、実際のところは人事評価は下がることはあっても「基本給」まで著しく変わることはほとんどありません。

一方で「職能給」を「潜在能力による給与」と定義した場合、転勤によって全くことなる部門へ配属となったとしても、A部門ではその潜在能力が発揮され、逆にB部門では発揮されなかったとして捉えれば、その人のもつ潜在能力は否定されることはなく給与の評価対象となり、「基本給(職能給)」は下がることはありません。

日本企業における総合職制度はその典型例であり、転勤によって他部門に配属になったことで、仮に成果が上がらなかったとしても特に「基本給(職能給)」が下がることがないのは、その人が持つ「潜在能力」を評価しているからです。(なお、最近では日本企業における生産性の低さが指摘されており、「潜在能力」ではなく「職務遂行能力」によって評価するため「役割給」を採用している企業が増えています)

「職務給」/「業績給」との違い

「職務給」との違い

ここで「職能給」の特徴を引き立たせるために、「職務給」の特徴について解説していきます。

「職務給」とは「人」ではなく「仕事」に着目した賃金制度であり、仕事の内容に対する評価すなわち「職務内容に対する給与」ということになります。

また職務内容については「仕事の難易度」「責任の程度」よって階層別に区分されることとなり、難易度が高く責任が重い職務程、給与が高くなることとなります。

つまり「職能給」とは違い、実際に職務を担うその人の能力自体を評価しているわけではなく、仕事の内容によって給与が決まるため、極端に言えば能力がなくとも難易度の高い仕事に就けば高い給与がもらえることとなります。(成果が出なければその仕事を外される可能性はありますが)

よって、組織目標に向けて頑張り、難易度の高い仕事や責任の重いポジションに就けば、その分給与が上がることとなります。

「業績給」との違い

少し余談となりますが、「職務給」は職務内容によって給与によって決まるため、頑張って成果を出せば給与が上がるものと誤認されがちですが、「職務給」で給与が上がるのは、難易度の高い仕事や責任の重い「ポジション」に就いた時です。

この場合は「成果に対する給与」ではないため、頑張って仕事をして、成果を出した分だけ給与をもらう場合は、その給与は「業績給」となります。

よく求人募集でも「固定給〇〇万円、業績給で+α」という記載を目にしますが、この場合は成果に応じて給与がもらえるかたちとなるため、「業績給」と「職務給」の違いについても知っておくと良いでしょう。

「職能給」のメリット・デメリット

なお、現代においては日本企業の生産性の低さが指摘されていることや、労働人口の高齢化が進み人件費の高騰化が危惧されていることから、この「職能給」を見直す企業も増えています。

ただし、業種や企業によっては「職能給」をそのまま採用する方が、会社として社員のモチベーションや業績向上につながる可能性があり、また働く個人にとってもライフステージに合わせて人生設計がしやすいといったメリットがあります。

ここでは「職能給」「職務給」のメリット・デメリットについて紹介します。

「職能給」のメリット・デメリット

《メリット》
①転勤におけるジョブローテションが可能

業種によっては転勤が前提とした働き方も少なくありません。その際に職務内容よって給与が決まるとなると、配置転換によって職務内容が変更となった場合、給与が上がれば問題ないのですが、給与が下がった場合は誰も転勤したがらないこととなります。この点、人の能力に着目した「職能給」であれば転勤よる給与の問題は生じないことになります。

②長期にわたる人材雇用が可能

また「職能給」は人の能力に着目した給与であるため、基本的には年齢や勤続年数によって、自然と仕事に対する熟練度(能力)が増すため、年功序列賃金のように年齢に応じて給与が上がる傾向にあり、社員としても安心して仕事ができることから、離職率が下がり、長期にわたり安定した人材雇用が可能となります。

③ライフステージに合わせた人生設計が可能

働く個人にとってみても、20代、30代、40代と年齢が上がるにつれて、結婚や出産、マイホーム購入など様々なイベントがある中で、年齢に応じたライフステージ合わせて、もらえる給与も高くなることから、人生設計や資産設計がし易いというメリットがあります。

《デメリット》

①生産性が上がりにくい

「職能給」の場合は、成果を上げても給与が上がらず、また給与が高い社員が成果を出すとは限らないため、給与が成果に結びつきにくく、結果として生産性(業績)が上がりにくい傾向となります。

②人件費が高騰化しやすい

また「職能給」は、一般的に年齢に応じて給与が上がる仕組みのため、少子高齢化社会においては働く社員も高齢になることから、全体として賃金すなわち人件費が高騰化しやすくなります。

③働くモチベーション低下

働く個人からすると、若い時はどんなに仕事を頑張って成果を出したとしても、年功序列賃金に伴い、給与は少ししか上がりません。そのため仕事に対するモチベーションが上がらず、転職を検討する人もすくなくありません。

「職務給」のメリット・デメリット

《メリット》

①生産性が上がりやすい

「職務給」の場合は、仕事の難易度や責任の度合いによって給与が決まるため、給与が高い社員程、重要な役割を担うことが多く、給与が成果に結びつきやすく、結果として生産性(業績)が上がることとなります。

②従業員のモチベーションが向上

また職務内容(仕事の難易度と責任の度合い)が給与と連動しているため、若手社員のうちからモチベーションが持って働くことができ、自ら資格取得・スキルアップを図るようになり、人材の高度化にもつながります。

③納得感をもって働くことができる

働く個人にしても、仕事の難易度と責任の度合いによって給与が決まっていれば、社員間の不公平感は無くなります。また高い給与をもらうためには難易度の高い仕事を就けば良く、またワークライフバランスを大切にした場合は、ある程度の仕事に就き給与はそこそこもらうだけ良く、自分の価値観に見合った働き方もできます。

《デメリット》

①人材が流失しやすい

「職務給」は職務内容に応じて給与と連動する一方で、その職務(ポジション)に就くことが前提となるため、そのポジションが就くことが無ければ給与が上がりません。そのため優秀な人材な程、ポジションがないとわかると他社へ転職する人も少なくありません。

②人材の配置転換が難しくなる

転勤等によって配置転換があった場合は当然に職務内容が変更になることも多く、「職務給」は職務内容と連動しているため、職務内容が変更となれば給与も変更となります。給与が上がる場合は問題ありませんが、給与が下がる場合は社員は配置転換を拒否したりと問題が発生するため、結果として転勤等に配置転換は難しくなるでしょう。

③人生設計・資産設計が難しい

「職能給」のは将来にわたり昇給が見込めますが、「職務給」の場合は一旦ポジションを外されると、年齢に関係なくその分給与が減るため、出産や育児、マイホーム購入などのライフステージに合わせた人生設計や資産設計が難しくなります。

これから「役割給」の企業が増える

ここまで「職能給」と「職務給」の違いについて解説してきましたが、最近の日本企業ではその中間である「役割給」を採用する会社が増えてきています。

「職能給」との違い

「役割給」というのは、組織における役割を各階層ごとに区分し、給与と連動させる仕組みとなりますが、「職能給」との大きな違いは、「職能給」はその人の潜在能力と給与が連動しているのに対して、「役割給」は組織における役割を担うことでその人の発揮された能力と給与が連動していることになります。

この2つの大きな違いは、会社という組織において、その人の能力が発揮されたか否かの違いとなり、「職能給」の場合は仮に能力が発揮されなかったとしても、その持っている能力を給与と連動させ、「役割給」の場合は能力を発揮することでその人が担った組織内における役割と給与を連動させることになります。

舞台俳優で言えば、「職能給」とは同じ演技力をもってさえいれば同じ給料となりますが、「役割給」は重要な役割を担う「主役」とそれをサポートする「脇役」とでは、同じ演技力をもっていたとしても、舞台上(組織)における役割(発揮された能力)が異なるため、給与が異なることとなります。

「職務給」との違い

一方で、「職務給」との大きな違いは、「職務給」は仕事内容そのものが給与と連動しているの対して、「役割給」はあくまでも組織内における役割と給与が連動している点です。

この2つの大きな違いは、同じ仕事をしていたとしても仕事の捉え方が異なっており、「職務給」は「仕事=どういう職務内容(仕事の難易度や責任の程度)なのか?」と捉えていますが、「役割給」は「仕事=組織内でのどのような役割を担っているのか?」と捉えています。

先程の舞台俳優の話で言えば、「職務給」は主役であれ脇役であれ、同じく「高度に難しい演技を要する仕事」と捉えられるのではあれば同じ給与となりますが、「役割給」の場合は舞台上(組織)においては主役と脇役とでその役割が異なるため、給与も異なることとなります。

日本企業においては「ヒト」中心の組織づくりという文化があるため、欧米企業のように「仕事」中心の組織づくりに急に転換することは難しく、その分「ヒト」と「仕事」の間に「役割」いう概念を作ることで、徐々にではありますが、仕事と給与が連動していく賃金制度を採用している企業が増えつつあります。

皆さんも、「これだけ成果上げても給与が上がらない」と思ったときには、会社の賃金制度が「職能給」なのか「職務給」なのか、それとも「役割給」なのかを確認してみてはいかがでしょうか?

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