【同一労働同一賃金Q&A】
手当、賞与、退職金はどうなるの?
同一労働同一賃金における正社員とパート・派遣社員(契約社員含む)の給与(基本給)について触れてきましたが、今回は基本給以外の手当、賞与、退職金について、パート・派遣社員(契約社員)の方への支給有無について触れていきたいと思います。
手当(通勤手当…etc)はどうなるの?
まず最初に手当ついて触れていきたいと思います。手当については業種や会社によってその名称は様々ですが、手当の中でも業種や会社に関わらず、支給状況の多いものにスポットを当てて説明していきたいと思います。
①通勤手当
通勤手当とは文字通り、会社に勤務するための交通手段に応じて会社がその費用を手当として支給するものですので、仮に正社員とパート・派遣社員とが同じ場所から勤務しているのであれば、同額の手当が支給されるべきものであり、 現時点でパート・派遣社員の方に支給されてないとなれば、そもそも合理的な理由がないため、今後は支給されていくことになるでしょう。
ただし、正社員とパート派遣社員においては、労働時間や労働日数が異なるケースが多く、また正社員の方については時間外労働や休日労働が命じられるケースもあり、 この点において正社員には定期代相当額として月額で支給し、比較的労働日数の少ないパート派遣社員の方については労働日数に応じた日額で支給するということについては、 合理的な理由があるため、多少の金額の差は発生するものと思われ、必ずしも正社員とパート派遣社員の通勤手当が同額になるという意味ではないので留意ください。
②役職手当
役職手当とは役職の内容に対して支給するものであり、 管理職手当とも言われます。例えば主任、課長、部長といった役職名に応じて支給されるものや、店長、エリアマネージャーといった名称に応じて支給されるものがあります。
役職手当についても正社員とパート派遣社員とが同じ役職についているのであれば、正社員にのみに支給されているということについては、合理的な理由がないため、 今後パート派遣社員の方でも支給されていくことになるでしょう。
ただしこの点においても、正社員とパート派遣社員においては、労働時間や労働日数が異なるケースが多いため、支給額が同額でなくてはならないという意味ではなく、仮にパート派遣社員の方の所定労働時間が正社員の3/4の場合であれば、支給額についても3/4にすることについては合理的な理由があるものと解釈されます。
③精勤手当
精勤手当とは無遅刻・無欠席に対して、または一定以上の出勤日数に対して支給される手当であり、 正社員一方のみへの支給では合理的な説明がつかないため、今後はパート派遣社員も含めて両者に支給されていくことになるでしょう。
なお、正社員とパート派遣社員においては、労働時間や労働日数が異なるケースが多いため、支給額が同額でなくてはならないという意味ではないので留意ください。
また遅刻や欠勤に対して、正社員のみに人事考課上のマイナス査定が行われており、パート派遣社員には行われていない場合については、 そのマイナス査定のリターンとして正社員のみに精勤手当を支給することについては、合理的な理由があるものと解釈されているため、パート・派遣社員の方への支給はないものと考えられます。
④家族手当
家族手当についてはその名の通り、社員が扶養する家族の有無や、その人数に応じて支給される手当であり、この点においても家族の有無は雇用形態によって異なることはなく、正社員のみへの支給では合理的な説明がつかないため、今後はパート派遣社員にも支給されていくことになるでしょう。
またこの点については労働時間や労働日数の相違も関係ないことから、「扶養家族一人当たり〇〇円」という定額が正社員が支給されているのであれば、同額が支給されているものと考えられます。
ただし、 家族手当については本来は従業員の生活保障との意味合いが強く、扶養する家族の有無(または人数)によって支給されるものであるため、 パート派遣社員の方で家族を扶養していると見なされない場合(例:配偶者の方が主に生計を維持している場合)については手当を支給しないとすることについては、合理的な理由があるものと解釈できます。
※人数要件のみで手当を支給している会社は、今後扶養要件も支給条件として設定してくる可能性が十分に考えらえます。
⑤住宅手当
住宅手当ついては、家族手当と同じく従業員の生活保障との意味合いが強く、 一律定額を支給するものや、家賃に定率をかけて支給するものがあります。
この点についても労働時間や労働日数の相違は関係ないことから、正社員のみへの支給では合理的な理由がつかないため、今後はパート派遣社員にも支給されていくことになるでしょう。
ただし、 住宅手当の支給条件として「転勤による転居の有無」 が条件としてある場合、つまり実態として正社員のみ転勤による転居があり、パート派遣社員には転勤による転居がない場合、正社員のみに住宅手当を支給することについては、正社員の費用負担を減らすことを目的とした合理的な理由があるものと解釈されますので、留意ください。
賞与・退職金はどうなるの?
※退職金については、考え方は賞与と同様になりますので、以下読み替えてください。
賞与については、本来会社が支払うべきものという風に、義務付けられているものではなく、支給するかしないかは会社が自由に決めること(就業規則に定めること)ができます。
よって、正社員の賞与と パート派遣社員の賞与に差を設けることについては、本来会社の裁量によって決めることができると考えられてきましたが、今回の同一労働同一賃金における法改正によって、その差についても是正されることになりました。
つまり、元々正社員に対しても賞与を支給していない会社であれば、パート派遣社員に支給していなくても何ら問題がないことになりますが、正社員に対して月給〇ヶ月分を賞与として支給しているのにも関わらず、パート派遣社員には寸志程度しか支給していないようであれば、余程の合理的な理由がなければ、均衡待遇違反となります。
賞与についてはその意味合いから考える必要があり、賞与の意味合いは主に「生活保障」「功労報償」「賃金の後払い」と解釈されています。
- 「生活保障」としての賞与
従業員の生活を保障するという意味ですが、会社の従業員に対する配慮に留まるものであり、その金額に根拠はなく、おそらく「寸志」がそれに該当するものと考えれます。- 「功労報償」としての賞与
会社の業績への貢献度や、従業員個人の会社における役割を金銭的に評価したものであり、会社の業績によって変動する「業績賞与」や、従業員の役職や役割に応じて金額が定められている「役割賞与」がこれに該当するものと考えれます。- 「賃金の後払い」としての賞与
本来労働の対象として支払うべき基本給の後払いという主旨であり、簡単に言えば基本給の〇ヶ月分を支払うものが、これに該当するものと考えられます。
会社によって、賞与の支給基準は様々ですが、概ね上記①~③の意味合いを前提として、考えられているものと思いますので、その点を踏まえ以下ケースごとに判断していきます。
・正社員全員に一律〇〇円というように定額が支給されている場合
このようなケースでは生活保障という意味合いが強く、仮にパート派遣社員に対して支給されていないようであれば、差を設けていることについては合理的な理由がないため、今後は支給されていくものと考えられます。 また金額についても、金額に差を設けることについて合理的な理由がないため、正社員と同額が支給される可能性が高いと考えられます。
※勤続年数に応じて支給されている場合も、このケースに該当します。
・正社員に基本給の〇ヶ月分が賞与として支給されている場合
このようなケースでは、役割や業績と連動していないようであれな、賃金の後払いという意味合いが強いため、差を設けていることについては合理的な理由がなければ、パート・派遣社員の方へも今後は支給されていくものと考えられます。ただし金額については基本給をベースとするため、正社員は月給をベースに、 パート・派遣社員については日給・時間給をベースに支給することについては合理的な理由があり、必ずしも金額が同額になるとは限りません。
・正社員に会社業績や役割に連動した賞与が支給されている場合
このようなケースでは、正社員に対しては会社業績(赤字)による賞与のマイナス査定があるのが通常であり、パート派遣社員にはそういったマイナス査定がない場合(赤字であっても一律支給の場合)は、支給の有無に差を設けること(パート派遣社員に支給しないこと)については合理的とも言えます。
また役割による賞与についても、職務内容やそれに伴う役割が正社員とパート・派遣社員とで異なっていれば、支給の有無に差があることは合理的と考えられます。※ただし支給の有無によって、あまりにも金額が乖離している場合は、その限りではありません。
一方でパート派遣社員の方が、正社員と同じ役割を担い、会社業績に貢献しているようであれば、支給額に多少差はあるかもしれませんが、支給される可能性は高いでしょう。
賞与・退職金については、会社によって支給の有無や支給基準が異なっていることから、一律にパート派遣社員の方が賞与や退職金を貰えるようになると論じることはできませんが、ポイントとしては、まず就業規則を確認したうえで、賞与・退職金規定と各々の支給基準を確認することをお勧めします。
なお、正社員の方については、基本給と同様になりますが、会社の人件費コストの関係から、手当、賞与、退職金が少し目減りする可能性は否定できません。
しかし、就業規則の不利益変更は会社にとってもハードルが高いことや、今回同一労働同一賃金の目的は、正社員の方とパート・派遣社員の方との待遇格差の是正であり、是正する場合は待遇の低い状態を、高い状態へと改善することを目的としているわけですから、会社が経営難に陥らない限りは大幅に減ったり、賞与・退職金制度が廃止されるということはないでしょう。
最後に
では最初の質問に戻りましょう!
Q:手当、賞与、退職金はどうなるのか?
A: 手当について、業務との関連性が強いもの(作業手当や役職手当、通勤手当etc)で正社員と同じ業務や役割を担っているのであれば、パート派遣社員の方へも支給される可能性が高い。関連性の弱いもの(家族手当、住宅手当)は正社員との雇用形態の差から会社から支給されているものもあるため、支給されない可能性もある。
賞与・退職金については、正社員に「一律定額支給」「基本給ベースの支給」がなされている場合は、今後パート派遣社員の方へも支給される可能性は高い。一方正社員に対して「会社業績や役割と連動した支給」されている場合は、正社員との業務内容の相違によっては、支給されない可能性もある。※同一労働同一賃金の取り組みは2020年の4月から始まっています(中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年の4月1日からとなりますので注意ください)
この記事へのコメントはありません。