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【社労士監修】副業・兼業における労災保険の休業補償について徹底解説!

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【社労士監修】副業・兼業における労災保険の休業補償について徹底解説!

厚生労働省による「副業・兼業の促進におけるガイドライン」も改定され、今ではダブルワーカーとして副業・兼業で働いている方も増えつつあり、また副業解禁・副業促進を行っている企業も増加傾向にありますが、副業・兼業という働き方については、まだ法整備されていない点もあり労災保険制度もその1つです。しかし今回法改正によって、副業・兼業における労災保険制度の見直しが行われ、より実態に即した休業補償が行われるようになりました。実際どのような点が変わったのか、詳しく解説していきたいと思います。

改正前の労災保険上の問題点

「労災保険」とは労働者が業務や通勤が原因で、ケガや病気等になった時や死亡したときに、治療費や休業補償など、必要な保険給付を行う保険制度になり、そのうち休業補償については、その原因となる労働災害が発生した場合、労働災害が発生した会社(A会社)で払われている賃金をベースに算定されることとなります。

一方で副業をしている場合、ケガや病気の状況によっては、副業先の会社(B会社)も休まざるを得ない状況も出てきますが、従来の労災保険では仮に副業先の会社(B会社)を休んだとしても、その賃金は考慮されておらず、十分な保険給付が行われていませんでした。

またケガが原因であれば、どの会社(A会社またはB会社)の業務中の事故であるかは明確ですが、心疾患や精神疾患の場合は両方の会社(A会社かつB会社)における労働時間やストレス(業務上の負荷)が原因となることもあり、従来の労災保険では、両方の会社における業務上の負荷を合わせて評価されていないことが課題となっていました。

今回の法改正はこのような問題点を解消するために行われたものとなります。

労災保険における法改正のポイント

今回の法改正のポイントとしては、大きく3つ改正点がありますので、それぞれについて詳しく見てみましょう。

複数事業労働者の新設

従来の労災保険では、1つの事業所(会社)でのみ働くことを想定して設計されていましたが、今回の法改正によって、事業主が同一でない複数の事業主と労働契約関係にある労働者として「複数事業労働者」が新たに設けられることになりました。なお、複数の事業主と労働契約関係にあることが条件であるため、例えば本業として会社員として勤務し、個人事業主として副業している場合「複数事業労働者」には該当しませんの注意が必要です。

賃金額の合算が可能

法改正前は、あくまでも労働災害が発生した事業所(会社)のみの賃金をもとに休業補償が算定されていましたが、「複数事業労働者」の方については、各勤務先の会社で支払われている賃金額を合算したうえで、給付基礎日額(休業補償の算定基礎となる日額)が決定されることとなりました。

業務上負荷の総合的評価

従来の労災認定においては、1つの事業所(会社)のみの業務上の負荷(労働時間やストレス)を評価するに留まっていましたが、今回の法改正によって、「複数業務要因災害」として新しく複数の事業(会社)の業務を要因とする傷病等(負傷、疾病、障害または死亡)についても労災保険給付の対象となりました。なお、この制度の対象となる傷病というのは、脳疾患・心疾患や精神障害等ストレスに起因するものとなり、例えば長期労働時間によるストレスによる心疾患が発生した場合、1つの事業所だけでは労災認定にならなかったものが、2つの事業所の労働時間を総合的に評価することで、労災認定となる可能性が出てきます。

次に、この3つのポイントを踏まえたうえで、実際の実務について触れていきたいと思います。

「複数事業労働者」に該当する場合とは?

労災保険における休業補償については、過去3ヶ月分の賃金から算定されますが、どの時点から3ヶ月になるのかは大事なポイントとなります。その時点のことを「算定事由発生日」といい、具体的には「傷病等が発生した場合または診断によって疾病の発生が確定した日」がこれに該当します。

なお、副業・兼業における労災保険の休業補償を受けるには、まず「複数事業労働者」に該当するのか?該当しないのか?を検証していく必要があり、該当非該当の基準は「発生日ベース」、つまり「休業補償を行うべき事由が発生した時点」で判断していきます。

算定事由発生日ベースで考える場合

まず複数事業労働者に該当する場合とは、「算定事由発生日」つまりは「傷病等が発生した場合または診断によって疾病の発生が確定した日」において複数の会社で就業している場合を言い、例えば労働災害「事故」により足を骨折「負傷」した時点で、複数の会社で働いているケースがこれに該当し、概ね「ケガの場合」を想定しています。

原因発生日ベースで考える場合

なお、ケガの場合は通常、原因となる「事故発生日」とケガをした「負傷日」が同じになるケースがほとんどですが、一方で脳疾患・心疾患や精神障害等の疾病の場合は、原因となる事故発生日と疾病が確定する日にズレが生じるケースがあり、原因が発生した時点では副業していたものの、その後1つの会社を辞め、疾病が確定した時点では副業していない可能性が出てきます。その場合は「傷病等の原因または要因となる事由が生じて時点」で複数の会社で働いていれば、複数事業労働者に該当することになります。

実際の実務においては、副業している方が労働災害に遭って休業した場合は、まずは①算定事由発生日ベースで考え、その時点で副業が解消されているようであれば、②原因発生日ベースで考え、過去に副業の状態がなかったかどうか確認していく方法が良いでしょう。

「複数事業労働者」の休業補償の算定方法

労災保険における休業補償については、就業している会社の平均賃金を基礎に算定された「給付基礎日額」により決定されます。この給付基礎日額は先述したとおり、原則として、算定事由発生日から前3ヶ月間に支払われた賃金をベースに算定されますが、勤務先の会社において賃金締切日がある場合は、直近の賃金締切日から前3ヶ月間の賃金をベースに算定されます。

なお、複数事業労働者の給付基礎日額の算定については、いろんなケースが想定されるため、今回はケース別に説明していきますので、もし実際の実務において近い事例があれば、ぜひ参考にしてみてください。

傷病等の原因が「1つの会社の業務のみに起因する」場合

このケースでは、実際にケガや疾病の原因が1つの会社の業務のみに起因する場合を想定しており、例えば建設会社のA社とB社を兼業しいる人が、A社の建設現場で転倒してしまい足を骨折した場合がこれに該当します。この場合A社の業務のみに起因するケガであり、B社の業務は何ら影響していないこととなります。

このケースについてはさらに2つのパターンに分けられ、1つは算定事由発生日において副業が継続している場合、もう1つは算定事由発生日において副業が解消されている場合となります。

①算定事由発生日において副業が継続している場合

このケースではケガや疾病にかかった場合でも、どの会社も辞めることなく、副業が継続している場合と想定しています。この場合は各勤務先の会社において、算定事由発生日から前3ヶ月間に支払われた賃金をベースに算定する、もしくは賃金締切日がある場合は直近の賃金締切日から前3ヶ月間の賃金をベースに算定し、双方の給付基礎日額を合算します。

②算定事由発生日において副業が解消されている場合

一方で、算定事由発生日において1つの会社を離職している場合もあります。例えば副業している方がA社でパワハラやセクハラを原因として離職し、その後うつ病と診断される(算定事由発生日)も、B社の仕事は軽易だったため副業として継続している場合が想定されます。

なおどちらの会社を辞めるかについては、労働災害が起きた原因や仕事内容、本人の意向にもよりますが、副業が解消されている場合については、さらに辞める会社が、「災害発生事業所」か「非災害発生事業所」かでケースが分かれることとなります。

  • 「災害発生事業所」とは?
    ⇒傷病等の原因となった業務災害が発生した事業所(会社)
  • 「非災害発生事業所」とは?
    ⇒災害発生事業所以外の事業所(会社)
②-A:災害発生事業所(会社)を辞めた場合

このケースでは、ケガや疾病の原因となった会社を辞めた場合を想定しています。この場合「給付基礎日額」の基礎となる平均賃金について、過去3ヶ月分をどこから計算するかが問題となりますが、この場合は算定事由発生日(傷病等が発生した日または疾病の診断が確定した日)ではなく、「災害発生事業所」の離職日の前3ヶ月の賃金をベースに算定することとなり、これは「非災害発生事業所」の平均賃金を算定する場合も同様となります。(※賃金締切日がある場合は離職日直近の賃金締切日から前3ヶ月となります)

②-B:非災害発生事業所(会社)を辞めた場合

一方で、ケガや疾病の原因となった会社ではなく、別の会社(非災害発生事業所)を辞めた場合も想定されます。この場合についてはケガや疾病の原因となった会社(災害発生事業所)に引き続き就業しているため、「給付基礎日額」の算定の基礎となる平均賃金については、算定事由発生日(傷病等が発生した日または疾病の診断が確定した日)前の3ヶ月をもとに算定されることとなり、離職日までは遡ることはできません。つまり非災害発生事業所の会社を辞めた場合は早く辞めた分だけ、3ヶ月より短い期間の賃金をもとに平均賃金が算定されることとなります。

傷病等の原因が「複数の会社の業務に起因する」場合(複数業務要因災害)

今までは傷病等の原因が1つの会社の業務のみに起因する場合を想定して解説してきましたが、最後に法改正のポイントでも触れたように、複数の会社の業務に起因する場合を想定して解説していきます。

複数の会社の業務に起因する場合とは、複数の会社に勤務することで長時間労働となり、その結果として脳疾患・心疾患や精神障害などの疾病にかかるケースを想定しています。

このケースについてもさらに2つのパターンに分けられ、1つは算定事由発生日において副業が継続している場合、もう1つは算定事由発生日において副業が解消されている場合となります。

①算定事由発生日において副業が継続している場合

このケースではケガや疾病にかかった場合でも、どの会社も辞めることなく、副業が継続している場合と想定しています。この場合は各勤務先の会社において、算定事由発生日から前3ヶ月間に支払われた賃金をベースに算定する、もしくは賃金締切日がある場合は直近の賃金締切日から前3ヶ月間の賃金をベースに算定し、双方の給付基礎日額を合算します。


②算定事由発生日において副業が解消されている場合

一方で、算定事由発生日において1つの会社を離職している場合もあります。例えば2つの会社に勤務している人が、双方の会社での長期労働時間が原因となって、体調不良によりA社を離職し、その後うつ病と診断される(算定事由発生日)も、B社の仕事は軽易だったため副業として継続している場合が想定されます。

この場合については、「複数業務要因災害」としてケガや疾病の原因となった会社に引き続き就業しているため、「給付基礎日額」の算定の基礎となる平均賃金については、算定事由発生日(傷病等が発生した日または疾病の診断が確定した日)前の3ヶ月をもとに算定されることとなり、離職日までは遡ることはできません。つまり、離職した会社の平均賃金の算定にあたっては早く辞めた分だけ、3ヶ月より短い期間の賃金をもとに平均賃金が算定されることとなります。

最後に

以上のとおり、副業・兼業の場合における労災保険における休業補償については、いろんなケースが想定されるため少し複雑な感じもしますが、確認手順のポイントを整理すると

【確認手順のポイント】

手順①複数事業労働者に該当するか?該当しないか?

手順②傷病等の原因が複数の会社の業務に起因するのか?起因しないのか?

手順③算定事由発生日において、会社を辞めているのか辞めていないのか?

手順④辞めた会社が傷病等の原因となった会社なのか否か?

となりますので、もし判断に迷われる場合は、上記のポイントを参考にしてみてはいかがでしょうか?

★労働基準法における副業・兼業の労働時間について知りたい方はこちら↓

★副業・兼業における雇用保険(失業保険)の加入条件について知りたい方はこちら↓

 

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